謎の事件簿2



その部屋は暗かった。
一寸先が見えないような闇の中、十二個の灯籠の灯が揺れていた。
その中を女が恐ろしげな声で話す。
「そのおばあさまは誰かが水を汲みに行くと、必ず白骨化したお姿で恨めしげにそこに現れるのだそうですわ・・・・。」
少年は身を固くした。
次は自分の番である。
肌から大量の汗が噴出しているのが自分でもわかる。
「さあ、次は志郎さんの番ですわよ。」
先ほど話し終えた女は、懐中電灯で自分の顔を照らし演出を作りつつ言った。
効果演出のせいかその顔はまさしく鬼婆である。
志郎は決意した。
「ごめんなさい。もうネタがないんです。」

 すぐに部屋の電灯がつけられた。
明るくなってみれば、何のことはない赤城家の和室である。
お茶やお菓子も置いてある。
異様なのは古い灯籠が百個置いてあることくらいである。
そこで四名の男女が(一名除く)ぐったりしていた。
「あともう少しでしたわねぇ。」
赤城家の長女の冴がおっとりとつぶやいた。
彼女は漫画家で、自身の作品のネタのためにこれを提案・準備した。
そして、今があるのだ。
「姉さん。一回目は五十六話で、二回目は六十九話。三回目が七十五話で、四回目でやっと八十八話。やっぱり成功させるためには当番制やめた方がいいと思う。」
冴の妹、由枝がげんなりと提案した。
冴とは違い、彼女は胸も女性らしいふくらみを持っておらず、少年のような少女だ。
姉と似ているのは髪の色と瞳の色くらいだと言われている。
が、今はどことなく力がなく枯れかけた植物を連想させた。
「姉さんの言うとおりだよ。兄さんや冴姉さんの方が長く生きてるんだもん。不公平だよ。」
先ほど固まっていた末弟が畳をいじりながら、言った。
優等生にしか見えない彼のかわいらしい姿も、今は枯れかけた若木のようだ。
由枝はふと長兄はどう思っているのかと、先ほどから何も発言しない長兄の方を見た。
彼は静かに茶をすすっている。
この兄弟には珍しく静かな長兄は、外観も他の兄弟に比べると地味だ。
全く何事もなかったかのような表情で茶をすすっているが、どうしても疲れが体からにじみ出てしまうようである。
「兄さん、大丈夫?明日重要な仕事があるんでしょ。」
姉の視線を追った弟が静かな優人に話しかけた。
優人が平気だ、と言ったため、当番制の変更もなく儀式は続けられた。

 冴以外のメンバーは虚ろな目つきで虚空を見つめていた。
悲しいほど目が闇に慣れている。
冴以外は全員、怪談の最中に変な風にどもったり、勝手に仮眠したりしていた。
他人の怪談などもとから聞いている余裕はなかったが、さらに本気で何も聞いていなかった。
こんな中でも、きっちり茶を飲み、菓子で体力を補充しながら、この儀式を続けていく。
真っ暗な中でも蚊が飛んでいたりして、時々バチッという音やそっち行った、などという声も聞こえたりした。
もっとも、そっちと言われてもどっちだか言っている当人以外わからないのだが。
全員限界点を突破した時には、落ち着いて聞けばいかにもその場で勝手に作ったような話も出始めた。
メンツが全員倒れそうなくらい体力を消耗している時、百個の灯籠全部の灯が消された・・・・・・。

 江戸時代のような衣装を着た女性が四人には一瞬見えた気がした。
そして、霊などが出るときおなじみの現象ポルターガイストが起こった。
近くにあった適当に軽い家具が宙を舞う。
赤城兄弟は叫びも慌てもせずに部屋の隅に移動した。
幽霊は彼らに本気でものを当てようとは思っていなかったようで、彼らには別に何も当たらなかった。
部屋の隅でものに当たらないように避難してからいくらか経ってから、部屋に飾られていた額縁が宙を舞った。
そして、由枝の手に謎の紙束が飛んでくる。
由枝はとりあえずそれをつかんだ。
よく確認するとそれは封筒のようだった。
落ち着いて開けてみると、中からお札が出てきた。
由枝が驚いているうちに、冴がその誰かのへそくりの封筒を奪い取った。
すると志郎が冴の後を追って、部屋の真ん中に出て行く。
すぐに部屋の中央から何か争うような叫び声や音がしだす。
タンスが飛んでいようが何だろうが二人は争っているようだった。
何か部屋の備品が人にぶつかるような音もしたが、争うような声は消えない。
さらにこの霊現象が激化するかと思われた時、出入り口が開く音と人の足音がした。

 その人間は暗い中にも関わらず、一直線に部屋の中央に向かっていた。
部屋の中央では冴が志郎から封筒を奪い取りガッツポーズをしていたが、その男は冴の腕を問答無用と言わんばかりにつかんだ。
その衝撃で冴の手から封筒が放れる。
そして、決定的な一言を放った。
「先生! 原稿はできているんですか? 出してください! 今日こそは!」
彼は冴の混合社の担当者の西山氏だった。

 そうなるとへそくり入りの封筒はどうなったか?
志郎がその栄冠を手にしたのか?
そうはならなかった。
封筒が冴の手から放れた瞬間、消えたのだ。
こうして、幽霊も冴の漫画に登場する分の出演料を手にし、この夜最大のイベントは幕を閉じた。
END



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*atogaki*
高校に入って初めて自由意志で書いた話。
どっかのチャットでネタ募集して書いたんだよね・・・。
高校のころの話はどこかのんき・・・。