雨上がりのある日の夜、由枝の足はその花屋に向かっていた。
一応この世にはバレンタインデーというものがあるので父と兄と弟に花をやろうと思ったからである。
二十四時間営業している便利な店はこの辺りではあそこくらいなものである。
店の名まで、「花屋」だというのだからわかりやすい。
由枝はまずどの花屋に行けばいいのか迷ったが、今度はどのような花を贈ろうか迷っていた。
白い花とカーネーションは没。
菊も何か縁起が悪いような気がするので没。
各個人にイメージが合わなさ過ぎる花も没。
とりあえず、没は出揃ったのであとは現地に行ってから決めてしまおうか。
「花屋」に着いた。
別にそれは当初の目的だからいいのだ。
しかし、問題はひとけがないことだ。
一階の「花屋」の部分は明るく・・・いや、電光に照らされたような雰囲気である。
二階部分は暗い。
だが、一階と二階の違いはその程度でどちらからも人の気配は感じられない。
そんなことを考えているうちに、「花屋」の敷地の駐車場から彼女は「花屋」に近づいていっている。
一応、「花屋」の入り口に着いた。
花が買えるかどうかは、怪しいものがある。
建物は人工だろう。
あと、店内のインテリアやポスターも。
だが、生活感とでもいうものが全くない。
放っておけば百年、二百年経ってもそのままの可能性が高そうに見える。
由枝は、私は客だと三回手のひらに書いてそれを舐めてから、店内に入った。
店内には花が並んでいる。
イーゼルにのっかった紙に花の値が書いてある。
ご丁寧にその字すらワープロ書き。
それ以前の問題として、由枝は花の名と実際の花が結びつかない。
近くで見るとやたら情熱的な赤い花と、何枚猫を被っているのか問いたくなる桃色の花と、世の中を舐めきったようなオレンジ色の花を買うことにした。
花の名と値を見てもよくわからないので、有り金を置いていこうと由枝は思った。
包装紙とリボンは見つかったが、レジが見つからない。
まさかお金を堂々と置いて行くわけにもいかないので探しているのだが、ない。
イーゼルのところにへそくりのように置いて帰ろうとすると、いらっしゃいませと言われた。
由枝が振り向くと、そこには男が立っていた。
エプロンをつけ、靴を履き、こちらを営業スマイルで見ているだけの男とというだけなら全然怪しくない。
しかし、彼の風貌は種を超えたかのようだった。
顔の彫りは典型的アジア人である。
だが、白人並みかそれ以上に肌が白く、家から一歩も出歩けない病弱青年の図のようである。
由枝は自分がやたら彼を探るよりも、やるべきことを思い出した。
「すいません、あの花と向こうの赤いのとこのオレンジの花を下さい。」
彼女はどもることもなく、相変わらず生気のない青年に注文した。
彼は手際よく花を包むと、メッセージをお書きになりますか、と言ってきた。
一応あった方がいいかな、と彼女は彼の差し出したメッセージカードにメッセージを書き出した。
適当に中身があるんだかないんだか分からないメッセージを書き、由枝はカードを花束につっこもうとした。
すると、青年が少し貸してくださいと由枝の手からカードを取り、赤いサインペンで何かを書き出した。
花屋のマスコットマークでも書いているのだろうかと由枝は白紙だったカードの裏を思い出した。
画用紙を切っただけのような味気ない紙、暇そうな店だな・・・由枝が失礼なことを考えているうちに、青年はカードへの書き込みを終えたらしく、ありがとうございましたとお釣りと花束を差し出してきている。
由枝は慌てて受け取ると、競歩のようなスピードで駐車場から出て行った。
かなり通常の店とは雰囲気の異なる店だったな、と由枝は思った。
店自体、店員といい微妙な店だった。
ああそういえば。
由枝はカードを思い出した。
あの店員はカードに赤ペンで何を書いたのだろう。
由枝は好奇心に負けて、弟の花束からカードを抜き出し裏を見た。
赤い線で描かれていた文様に由枝は見覚えがあった。
この宗教色の濃い柄、確か兄さんの部屋に置いてあった西洋史の本や、姉さんの資料に載っていた。
姉さんの資料の名前、題名は西洋魔術の進化と魔法使いの変遷だったような・・・・・・。
由枝は家に着いたら、姉の資料を見せてもらうことを決意した。
END
back
*atogaki*
高校に入ってから初めて書いた小説。
美術の時間の課題で絵を見たイメージで書けと言われて、こんなのに。
今見ると、文章がびみょーに・・・ヘタれ・・・・(赤面)