CQおじさん

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第4章 時は流れて

BIGが行方不明
奇人ばかり

久しぶりのBIG
とばっちり
変らないもの

「21メガはやっているかい、CEO」
「横浜博の頃は良かったけれど、この頃はさっぱりだよ。430はどうだ、CBA」
「144メガのSSB(単側波帯)より飛びが良いよ。CEOはミニファックスをやってるかい」
「仕事も忙しくなったから、無線どころじゃないよ」

「デートの方で忙しいんだろう・・・」
「そんなところにしておくか。430はFM(周波数変調)でやっているのかい」
「FMしかないからね。四エレ八木で静岡県や埼玉県に飛んでいるよ。富士山の方向へアンテナを向けると良いようだ」
「周波数帯でずいぶん飛びが変わるんだな。430は飛ばないと言われてるのに・・・」
「他人に世話になって無線をするのが気に入らないから、レピータ(中継器)を使って交信するのが癪でいろいろ試してみたんだ。周波数が高くなるほど直進性が増すというから、向かいの建物に反射させて飛び方を試しているうちに分かったよ、CEO」

「CBAも凝り性だね。俺は工作は好きだけど、データを集めたり分析をする気が起きないな。さっそく試してみよう」
「CEOはローテータ(回転器)を使ってるんだろ。富士山か丹沢に反射させると俺より遠くに飛ぶぜ」
「エレメントを増やして、指向性を強めればもっと飛ぶだろう。試したのかい、CBA」
「前に八エレや一二エレを付けたとき、目立ちすぎてその日に分解したから止めておくよ。俺のローテータは小型だし、アンテナが落下したら大変だからね」
「CBA、やれる範囲で運用するしかないな。それを越えると家族争議のもとだよ」

                                 文頭へ戻る

BIGが行方不明

「話は変わるけど、この頃BIGの声が聞こえないんだ。CEOは繋がっているかい」
「以前は、朝夕に互いが移動中に交信していたけど、そういえば声がしないね、CBA」
「俺もこのところ430の交信が多くなってるから一月ばかりBIGの声を聞いていないんだよ、CEO」

「BELに聞いておくよ。BIGのことだから女の子を追いかけているんじゃないかな。それで忙しいんだよ」
「あれだけノロケ話を吹聴したから、振られて出れないのかもしれないな、CEO」
「そんな人じゃないよBIGは。振られたらそれを吹聴する人だぜ。悪い病気にかかったのかもしれないよ、CBA」
「ヨットマンだから身体は頑丈だろう。不治の病を貰ったのかもしれないね。遊び過ぎたから自業自得かな」

「また話は変わるけど、CEOの近くでCQを出していたおじさんも静かになったね」
「J×1ASKさんか。そういえばこの頃出ていないな。いつもCQを出してプッツンするOMさんだよね、CBA」
「そうなんだ。あの局はCQを出すだけで、サブチャンネルを指定しない人だよ。どうしたんだろう」
「応答があっても、そのまま『それでは終了します』だもんね。声を出す練習をしていたのかもしれないよ」

                                 文頭へ戻る

奇人ばかり 

「CEO、うちの子供は横浜の三奇人と言ってるけど誰だか分かるか」

「どんな三奇人なんだ?」
「《念仏おじさん》、《CQおじさん》、《怒りんぼおじさん》だってさ」
「念仏はABCさんだろ、CQはASKさんだろ、怒りんぼは分からないよ」
「酔っ払いのBAD局だよ。メインで騒ぎまくっていたけどこの頃は静かになったよ」
「病院に入れられたのかもしれないぞ。それにしても子供は上手にニックネームを付けるものだね、CBA」

「CEOを子供が何て言ってるか知ってる」
「もちろん、優しいお兄さんだろ・・・」
「《むっつりお兄さん》だって。喋り方で付けたようだね」
「ちゃんと教育しておけよ、CBA。太郎と丸子ちゃんに会ったら厳しく抗議しよう。それじゃ、BELは何だ」

「《顔は怖いけど優しいおじちゃん》だってよ。菓子や弁当を貰ったから評判が良いんだな・・・」
「そんなものでなびくから、子供は怖いな。女もそんなところかな、CBA」
「横に妻がいることを忘れちゃ困るよ、CEO。可愛いパンジーにそんなことを言えないよ」
「この前はトリカブトだとか、ラッパズイセンとか言ってたくせに。奥さん聞いてる! CBAはあんたのことを・・・」
「変なことを言い出すなよ、CEO。おやすみ」

                                 文頭へ戻る

久しぶりのBIG

「BIG、今晩わ。このところ静かだったね。どこにお隠れになっていたの?」
「ちょっと飲みすぎて入院していたよ。悪い噂を流していたんだろ、CBA」
「この業界は、出なくなったら噂が飛び回るのをあんたも充分知っているんでしょ」
「まさか、ブタ箱に入っていたなんていっていないだろうな、CBA」

「BIGの場合は、女に追いかけられて逃げているとか、ヨットの沈没ぐらいかな」
「海外旅行とか、寺にこもるなんて話は出なかったのかい」
「どうせ女の子を追いかけているだろうという意見が多かったな、BIG」
「それは、BELやCEOが言ったんだろう。俺を誤解してるんだよ。もっとマシなことを思いつかないものかい」
「遊びが派手で座敷牢に閉じ込められてるんじゃないかと、俺は言っておいたよ」
「CBAがそんなことを言うから、変な噂が飛び回るんだ」

「ところで、あんたのパンジーは元気かい」
「ラッパズイセンなら元気だよ」
「ユリとこのところ会っていないんだ。プレゼントは何にしたら良いだろう、CBA」
「そんなことは知らないよ。ガラにもないことを言い出さないで欲しいね。側には女房がいるんだよ」
「そこでパンジーに聞いて欲しいんだ。彼氏から何が欲しいか聞いてよ」
「止めてくれよ。後で俺が買わされたらどうしてくれるんだ」

「いいじゃないか。パンジーに聞いてよ」
「ダイヤモンドだの、家だの、服だの並べてるよ、BIG」
「それはちょっと高すぎるな。手ごろなやつはないかい」
「それなら、花とか香水とか言ってるよ、BIG」
「やっぱり、それくらいかな」
「分かっているなら聞くなよ。俺の腹が痛むことを言い出さないでほしいな」
「たまにはパンジーにプレゼントをしろよ。無線ばかりのめって相手にしていないんだから罪滅ぼしも大切だぞ、CBA」

                                 文頭へ戻る

とばっちり

「俺はやましいことはしていないよ。身も心も捧げているんだぜ、BIG」
「それが誤解の始まりかもしれないよ。砒素でも盛られてイチコロだな、CBA」
「保険金が欲しくて毎日盛っているかもしれないね。世話を焼かずに済むからな・・・」

「止めておけよ。後で土下座して謝るハメになっても知らないぞ」
「BIG、あんたが言い出したんだよ。プレゼントの相談も迷惑さ」
「それは知らないよ。パンジーによろしく」
「キタムラのバックだとか、ミハマの靴なんて言い出したぞ。どうしてくれるんだ」
「明日、元町に出かけて買ってやれよ。じゃ、またよろしく」

「ひまじんが久しぶりに出てきたと思ったら、いつになく早く終えてしまったのね」
「BIGはいつもあの調子なんだよ。入院していたとは知らなかったな。直ったらすぐに遊ぶ元気があるのに驚いたよ」
「そのうち、買い物に付き合わされるんじゃない。前にもそんなことがあったわね」

「女性物の買い物など恥ずかしくて行けないよ。おまえの買い物に付き合うだけでも恥ずかしいのに・・・」
「花や香水はいらないけれど、バックや靴は欲しいわね。このアンテナで何個買えたのかしら・・・」
「へそくりでもして買ったら良いよ。でも、おまえにはブランド品は似合わないよ」

                                 文頭へ戻る

変らないもの

「BELのおじちゃんやCEOのお兄さんもこの頃、無線に出て来ないね」
「お父さんが使う周波数が変わったからだよ。BELのおじさんとBOOのおばさんは毎日交信しているよ。CEOは仕事が変わったからたまにしか出ていないようだね」
「BIGさんだけが、相変わらずお父さんを呼んでいるわ」
「あの人は、シーラカンスだからね」

「CUPのおばさんはどうしたのかな。この頃、CQが聞こえないね」
「高校入試の子供がいるから、夜は止めて、昼間に頑張っているようだね」
「賢介にいちゃんや若葉ねえちゃんも、高校生や中学生になったんだよ。おまえたちだって二人とも小学生になったんだ」
「みんな変わっていくんだね、お父さん」

「変わっていくものがあれば、変わらないものもあるんだよ・・・」
「念仏おじさんは、いつも出てくるね」
「怒りんぼおじさんは出てこなくなったよ」
「あのおじさんは、誰にも相手にされなくてきっと寂しかったんだな」
「CQおじさんも出てこなくなったね」
「きっと別の周波数で頑張っているんだよ」

「寒くなってきたからテントに入るよ、おねえちゃん」
「太郎、空を見なよ。星が一杯だよ」
「こんなにたくさん星が出ているのね。横浜では気がつかないわ」
「ネオンサインが邪魔しないし、空気が澄み切っているからさ。丸子も寝ろよ」
「おやすみ、お父さん。明日の帰りは無線をたっぷりやっていいよ」

                                             終り

 参考文献
 こうむら・ゆみか『花ことば物語』1994年西東社発行

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