閉め忘れた窓


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一人だった時に退屈しのぎに詩人をまねて作った駄作です。
気に入っていた黒田三郎、室生犀星、中原中也のパクリです。



 

旅は
胸はずませて向かうもの
異国料理を味わうように

旅は
身体いっぱいに感じるもの
田舎料理を作るように

そして
一歩一歩踏みしめて目差すもの
だらだら尾根を登るように

ときには
いさかいや意気がりを交えて



お調子者

アイゼンとピッケルを使い
凍てつく強風にあおられ
もどかしさに腹立てては
歩いているおのれを呪う

ガラクタ混じりの荷を背負い
言い争いを繰り返し
いらだちを隠しては
歩いているおのれを笑う

山頂(ピーク)に立てば
すべてをたちまち想い出に変えて
「そんなこともあったっけ」なんて
有頂天になって 
シラをきる



 
単独行

誰もが ふと
ひとりで歩こうと思い立つ
取り止めになった無念さや
いつも頼っている後ろめたさで

ひとりでは 妙に
いさかいばかりする友達や
街のにぎわいが
懐かしくなったりする

いつも
一緒に歩いてきたばかりに
なおさら


こんなささいなことだけど

重い荷を背負い
ぬかるみの中を歩く

とりたてたアテもなく
暗闇の中を走る

ときには
「こんなことばかり」なんて
おのれをののしり
たちまちのめり込んでしまう

気まぐれな俺



雲海

冷え込んでくる頃
谷間を埋めつくす
白い雲の流れ

互いが麓(ふもと)を振り返り
長かった道のりを語らううちに
山頂(ピーク)の一部だけ
わずかに残し
視界をすべて覆いつくす

僕らは
さしずめ漂流者
柄にもなく こうべを垂れ
明日の晴天を祈る



八ヶ岳

吹き上げる風にめげず 赤岳の山頂に立つと
北アルプスの山並みは 蒼空に白いしぶきを上げる
真近に聳える双頭峰
あれは 初めてアイゼンを使った天狗岳
雪の滑らかさを身体で知った冬

言い争いを繰り返し 硫黄岳の山頂に立つと
槍と穂高の間に 深くて大きな裂け目を見る
あの間のやせ尾根
あれは 初めて岩づたいに歩いたキレット
戻ることもできず鎖にへばりついた夏

長いハシゴに息をはずませ 権現岳の山頂に立つと
湧き上がる雲の中に シルエットが連なる
岩肌をむき出す単独峰
あれは 八ヶ岳主峰の赤岳
いさかいの中に優しさを味わった秋

清里の牧場のかなたに
どっしり聳える岩の稜線を仰ぐたび
歩き回った日々を ふと 懐かしむ 



甘いささやき

「あなたも あなたにできないはずが」なんて
誠実めいたささやきが氾濫
誰にもある うぬぼれを巧みにくすぐり

「お前にも お前にできないはずが」なんて
グラス片手に好みの押し売り
俺に潜む うぬぼれを巧みに逆なでして

こんなささやきに
どれほど欺かれたことか
愉しみつつ



チーズケーキ

チーズケーキを食べる というだけで
仲間の男たちは笑う

甘いものは毒だぜ という忠告のあとで
あんなものは女や子供の食い物という
あきれかえった罵り

酸っぱくて あっさりしていて
けっこう美味いものだ
と反論するたびに
男たちはニヤニヤ笑う

どんなものを食べようと
勝手だろうに
男だの女だのと
こだわることもないだろうに



 
幻でもいい

「いい女だった」と ふと 男が口走る
きっと幻だったのさ あれほど口にしたのだから

「いい女だった」と また 男がぼやく
きっと幻だったのさ それほど口にするなら

「いい女だった」と つい 俺も言い返す
きっと幻だったのさ これだけ口にするなら

そうだそれでいい 愉しい想い出ならば



意気地なしめ!

振られる前に振っちまえ
好きになる前に遠ざかれ
それが 男の美学だ なんて

ああだ こうだ見栄を張るな
相手のためだなどと気取るな
それが 俺の信条だ なんて

好きだと言えず酒びたる
いつもの 醜態 なんて

ああだ こうだと
いつも 弁解を並べる なんて

冗談は止めてくれ
優しさを安売りする男たちよ



へそ曲がり

恋の唄ばかり口ずさみ
女の前じゃ 赤ら顔

春の唄ばかり口ずさみ
女の前じゃ 真面目顔

いくさの唄ばかり口ずさみ
女の前で 黙りこむ

男は いつも へそ曲がり
仲間同士じゃ 見栄を張り
女相手に 意気地なし



ある日ある時

ある日ある時 男はふと笑い出す
意気がるのも辛いものだ なんて
仕事に疲れ 年(とし)を確かめ
一人で夜空を仰ぎ

ある日ある時 男はふと振り返る
何かが狂っている何かが なんて
酔った身体をムチ打ち 歩みを止め
遣り残したものを思い出し

ある日ある時 男はふと叫ぶ
こんなはずがないこんな なんて
もの分かりがよく そつのない他人を
自分自身の中に感じて

マッチを擦り タバコをふかして
自由な日々を懐かしみ



ごらん

ごらん 色とりどりの帆を
船出を待っている

ごらん 岬の先に打ち寄せる
波しぶきの舞いを
あの岬の先には
荒波が打ち寄せる小径がある

ごらん 沖に浮かぶ外航船を
僕らの周りには どこにも
活気があふれている



たまには

たまには 恋の唄でも口ずさもう
大声で張り裂けるほど

たまには 仲間とはしゃぎまわろう
もてて困るそぶりをするのもいい

たまには 遠くの海へ向かおう
潮風に身をさらして

たまには 知ったかぶりを止めよう
近くの山で汗を流すのもいい



パクパク

ぬけるように澄んだ青空
アスファルト道に陽炎(かげろう)
妙に他人目をはばかって
いたずらに口をパクパク
まるで酸欠の金魚

エアーポケットの浜辺
波打ち際にさざ波

もうよそう
どうでもよい世間話など
男がそっと呟く

またしても夢
遠い昔に見た映画のひとこま



賢い人よ

キザな文句を並べ
取り入ろうとしたところで
あなたは たちまち
ぎこちなさに 気づくことでしょう

ささやき声でくすぐり
取り入ろうとしたところで
あなたは たちまち
空々しさに 気づくことでしょう

うわ目づかいは止めてくれ
首をかしげるのも

冷たい風が心地いい



晩秋

カフェテラスの窓際
ちょっぴり いかした娘がひとり
ほほづえついて坐っている

秋の残照が
かたわらの席でいじけている男に
マフラー代わりにどうだ なんて
ささやきかける

その男は
冬の寒さを思い出し
血走った視線を
傍らの席に投げつける

娘はフランス女優のまねをしてるだけ

カフェテラスの窓際
男と女が
手持ち無沙汰に坐っている



約束

若かったおばあちゃんは いつも俺に言った
「嘘をつくと閻魔様に舌を切られるよ」と
でも、舌を切られない友達もいて
いつも戸惑った
大好きなおばあちゃんの言うことに
間違いなどあるものかと信じつつ

両親や学校の先生も いつも俺に言った
「約束を守れないやつは人間じゃない」と
でも、人間のままでいる詐欺師もいて
いつも戸惑った
立派なおとなが言うことに
間違いなどあるものかと信じつつ

約束は破るためにある
女はそう思い違いし
男はいつもあきらめる

若かったおばあちゃんや
おとなたちのもっともらしい顔を
俺は思い出す
あれは 何だったんだろう
あれは と



美しいままに

誰もが なぜ 連呼したがるのか

ありふれた科白を口にすれば
あなたがご機嫌としても
そうしたくない時がある

連呼なんて
当選するまでの奇麗事
大安売りの呼び込み
その場しのぎの言い逃れ

ありふれた科白を口にして
空しさを味わされるなら
時には
黙っているのもよかろう
美しいままに
そっと



深夜

たった ひとこと口にして
眠れぬ夜を迎えたことはないか
顔見知りの者どうし
気安さにつられ 強がりを口にした後で

たった ひとこと言えずに
眠れぬ夜を迎えたことはないか
行きずりの者どうし
黙りこくり 上目づかいした後に

言葉なんて なくてよいもの
口にして 悔やむのなら
互いが 傷つけ合うなら



どうってことも

どうしてそんなものに なんて問われ
思案したものの
決まり文句が出てこない

別にどういう理由(わけ)もなく
その場その場に打ち込んだって
その日その日を愉しんだって
いいだろうに

ありふれたイメージを持ち出されて
分かったような顔をされても戸惑うだけ
白々しい言葉は口にできない
ミジメたらしい言葉はなおさら

言葉の便利さに
ドップリ浸かってしまったばかりに



時の流れ

どんなに 嫌なことだって
どんなに 嫌なやつだって
想い出にしまいこまれると
美しいものになってしまう

時には
叫んだり 呪ったり ののしったことも
あったはずなのに

時の流れはオブラート
すべてを 甘く包み込んでしまう



旅立ち

遠い地へおもむく その日が
近づくというだけで
むしょうに腹立てることはないか

あと数時間で発つ そのとき
目一杯過ごしたはずの日々も
いたずらに過ぎたかのように映る

遠い地に向かう弟が きのうから
時計を見ながらそわそわして
言葉をかけることさえできない

旅立ちは目覚めに似ている
思案しているうちに時が過ぎてゆく
冬の目覚めに似ている



まちかど

デモ隊が通り過ぎる
いつものように
決まりきった文句を並べて

カフェテラスでは
いつものように
男と女のありふれたかけひき

デモ隊がカフェテラスの前を通り過ぎる
いつものように
けだるい足音を響かせ
空しいアピール繰り返し



あるのは日々の繰り返し

ある日 「あの娘(こ)だけを」とほざく男も
ある日 「あの娘(こ)なんて」と呟く
そして ある日 ありきたりの科白(せりふ)をもてあそぶ

誰もが 自分ことで手一杯なのに
他人事になると 正義だ 義憤だのとほざく
そのくせ 自分のことは 堅く口を閉ざす

あるのは 日々のの繰り返し  
腹立てては忘れてゆく 忘却のいとなみ



持ち合わせがない

恋の唄など作ってみようと思うのだが
「行かないで」などと言いかねないのでやめる 

愛の唄など作ってみようと思うのだが
「人類みな兄弟」などと言いかねないのでやめる

仕事の唄など作ってみようと思うのだが
「おとなの生きがい」などと煽りかねないのでやめる

遊びの唄など作ってみようと思うのだが
「みんなで一緒に」などと煽りかねないのでやめる

まともな唄ぐらい作ってみようと思うのだが
僕にはありきたりな文句しか持ち合わせがない



教訓ひとつ

なんとなく 長い年月を生きたという
ただそれだけで
教訓のひとつもぶちたくなる
振り返ればたわいない山道だって
なんど泣き言を並べ、立ち止まったことか
ちっぽけで惨めな自分を味わされもした

教訓というものは まったく勝手なもので
失敗(ヘマ)の裏返しだから
役に立つことはめったにない
そんなわけで ひとつふたつ並べようと
思い立ったもののやめることにした

気分がいいからやめる
申し訳ないが悪しからず



男の顔

男の顔は郵便はがき 
のっぺらぼう

きまりきったことを伝えるには
安価なものの
あたりさわりのない文面になるのが 
郵便はがき
まして
つぶやきめいた内容じゃ不適

いつも
男の顔は郵便はがき 
のっぺらぼう



たわごと

口を開けば 罵詈雑言
こごと言われりゃ 反抗し
ところかまわず 春の唄
酒を飲ませば クダをまく

ギター爪弾びきゃ 不協音
娘っ子を前に うなだれて
スキーやらせりゃ 前のめり
仕事はいつも ヘマばかり

どうせこの世にゃ 一回限り
きのうのことを 悔やむより
今日を愉しく やるほうが
あとくされなくて よかろうに



はしゃぎまわって

はしゃぎまわって 笑いこけ
はしゃぎまわって からみつく

はしゃぎまわって そしられて
はしゃぎまわって 悔やみ出す

はしゃぎまわって 疲れ果て
はしゃぎまわって 寂しがる

はしゃぎまわって 飲み過ぎて
はしゃぎまわって 二日酔い

はしゃぎまわって 後悔し
はしゃぎまわって 目を回す



いずれそのうち

とりえのない女と
とりたてて好きでもなく結ばれた
とりえのない男が
とりたてるほどのものもない日々をおくり
つつがなく子供をひとり立ちさせる

なにかと不満を並べたて
なにかと自分をはかなみたがる
なんのとりえのない男が
たった一日の女房不在でおろおろする
なんともしまりのつかぬ日々の暮らし

いやだ、いやだ もうやめよう
いつもことあるごとに そうつぶやき
いつも逃げてばかりいる
いつもの仕事にしても
たった数日休んだだけで気になる貧乏性

そんな親父たちのように
息子たちもまた 同じことを繰り返す

いずれそのうち
いつも同じことばかり繰り返している
いくじなしの この俺も
いわれるがままと思うものの
いまのところは まだまだ無理

いずれそのうち
いつとはなしに
いつもの俺と別れるはず
いずれそのうち いつとはなしに
いずれそのうち いつともなく



たそがれ

テレビでは したり顔した評論家が 世をうれう一人芝居
きっとあとで テレ笑いのひとつもして
酒場に直行するのだろう

真紅に焼けただれた額の男が テレビの前で
老眼鏡をぎこちなくかけて
異国の文字が散りばめられた本に挑んでいる

テレビでは 若者相手に評論家が でまかせの大安売り
きっとあとで 愛想笑いを振り撒いて
裏口からぬけだすのだろう

定年まじかの男が 黙々と本に挑んでいる
老眼鏡をぎこちなくかけ
キレイゴトの散りばめられた本に挑んでいる

その本は
どんな思いをさせているのだろう
寝足らぬ思いで職場に向かい
疲れ果てて家に戻るしかなかった男に

夕日が次第に影を伸ばして行く



朝っぱらから

カーテンに陽光さすと
隣の駐車場から甲高いエンジン音

スイッチをひねれば
聞き手かまわぬ時事解説

窓の外を見れば
垂れ込める乳色の空

クルマ一台やっとの道を
けたたましいクラクション

息せき切って駅に着けば
溢れる寝ぼけ眼の群れ

満員の車内は
むっとする口臭と厚化粧

やっと職場に着けば
皮肉交じりの挨拶

ああ
いつもいつも
いつも朝っぱらから



日没

海原に一条の軌跡をのばす真っ赤な太陽
ポンポン船がかん高い音を響かせ
太陽めざして出漁して行く

浜辺にはさざ波

飽くこともなく立ちつくすうちに
ひときわ大きさを増して
太陽は静かに沈む



夜行列車も見送って

明か明かと
だが 人影もまばらな
ちっぽけな駅を
ひっそりと夜行列車が通り過ぎる

ほろ酔いの勤め帰りや
華やいだ服装できめた若者で
満員の鈍行列車が
ひっそりと通り過ぎる

僕は身震いしながら
赤い電車が来るのを
じっと待つ

尾灯が次第に霞んでゆく



エピローグ

暗闇の中を俺は走る
アクセルを踏み込み
騒音に酔い
流れ去るネオンライトを背に

後方から上向きライトが接近すれば
腹立ちかけ 歯ぎしりし
知らぬうちに加速している
自分を笑う

「もう若くはない もう」とつぶやき
シフトダウン

俺は走る
暗闇の向こうにある
まばゆい日の出をめざし




【終了のごあいさつ】

 やけっぱちで独りよがりな駄作にお付き合いいただきありがとうございました。ガラにもない詩を書き溜めてそのままにしておくのが残念でこのブログに掲載しました。娘には道楽親父にもこんな時代があったのかと見直されていて、照れくさい日々です。
 なお、こんな真似事の元となった詩人については『捨てられないノート』で触れていますので、ヒマがありましたらお読みください。お付き合いありがとうございました。2005/05/28