麻生財務大臣のナチス発言

 麻生副大臣が都内の憲法改正についてのシンポジウムでナチス政権を引き合いに出した発言をして、国際的に批難を浴びている。シンポジウムで麻生氏が憲法改正に関して発言した部分を抜き出してみる。

 「僕は今、3分の2という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力でとったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください」

 「そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持であったり、そうしたものが最終的に決めていく」

 「しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある」

 「僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか」

 「昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね

 「わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない」

 発言の中で問題になっているのは太字で示した部分である。それ以外は、とくに問題になるような個所はないと僕は思う。まず、ここには事実誤認がある。‘ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ’という部分で、ナチスは全権委任法を成立させて、ワイマール憲法を有名無実化してしまったのである。ナチス憲法というものはない。

 しかし、この事実誤認は問題ない。問題は、誰も気づかないうちにワイマール憲法を有名無実化してしまった「あの手口学んだらどうかね」という部分である。麻生氏がこの発言をしたシンポジウムの映像を見てみると、笑いを含み明らかに冗談としていっていることがわかる。聴衆からも、失笑が起きており、冗談をして受け取っているように思われる。橋下大阪市長のいうように‘ブラックジョーク’だったわけである。では、‘ブラックジョーク’だったら、この発言は問題ないのだろうか?

 例えば、アメリカの要人が広島・長崎の原爆投下に関して、ブラックジョークをいった場合、僕たち日本人はどう感じるだろうか?それが、どの程度のものであっても、不快感を覚えるだろうし、実際に、被ばくされた人たちは、怒りを感じるのではないだろうか?ナチスは、ヨーロッパにおいてユダヤ人の大量殺戮を含む、多大な惨禍をまねいた存在である。原爆投下と同様に‘ジョーク‘の対象として、許されるものではない。

 つまり、問題にされるべきは、麻生氏の発言の真意というより、国際感覚の無さである。このようなことをいったら、怒りを覚えたり、不快に思う人が世界にいるという感覚の欠如である。彼は市井の一市民ではない、副首相・財務大臣という国の要職に就いている人間なのだ。自らの発言の与える影響というものに、鋭敏でなくてはならない。

 また、麻生氏の発言を擁護した橋下氏も同様である。彼の国際感覚の無さは、先の従軍慰安婦に関する発言で明らかだったが、そこから何も学んでいなかったことがわかる。従軍慰安婦に関する発言で、彼は国際感覚がないだけでなく、人権意識も希薄だということがわかった。政治家に向かないだけでなく、弁護士としてもどうなのだろうと思ってしまう。せいぜい、テレビのコメンテーターがお似合いというところだろうか。(2013.8.3)




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