連帯保証人

 今回の引っ越しではいろいろと勉強になった。特に連帯保証人については深く考えさせられた。前回、部屋を借りるときは弟が働いていたため、苦労することもなかったが、彼は現在無職のため、保証人に立てることができなかったのである。すでに妻の方からひとりお願いしているし、妻の日本にいる他の親戚はほとんどが女性のため、最近は年賀状のやりとりだけになっていた僕と同じ年の従弟に頼むしかなかった。

 ほとんど没交渉になっている相手にいきなり連帯保証人になってほしいとお願いするのはさすがに気が引けたが、仕方なかった。始めはお互いの近況などを話し合い、頃合いに見計らって保証人の話しをした。保証人という言葉を聞いた後から、彼の声のトーンが明らかに変った。

 後ろめたい気分になり、僕はいつになく饒舌になった。弟が失業していて保証人として頼めないこと、日本にいる妻の親戚は女性ばかりで、彼女たちに保証人を頼むということは、必然的に彼女たちの夫に保証人を頼むということになり、僕との関係性が薄くなり、審査ではねられる可能性のあること、保証会社に不必要なお金を払いたくないことなど、弁解がましく話した。

 保証人になることを承諾してもらった後、申込み書類に記載するため個人的なことを訊いていったのだけど、それに対する応え方がぞんざいな感じになり、また、受話器を口元から離しているらしく、声が聴き取り辛く、何回も同じ質問をしなくてはいけなかった。

 電話の中でがっかりしたのは、保証会社の話をしたとき、「保証会社は、いいよ」と彼がいったことである。面倒なことはごめんだという、彼の気持ちが現われていた。それだったら、そのような心にもない、いい加減なことをいわず、はっきりと拒絶してくれた方がよかった。従弟にしてみれば、これまでの付き合いもあるし、はっきりと断ることはできなかったのだろうが、それにしても取って付けたような言い方だったので、落胆した。

 翌日、仲介会社から従弟の携帯の番号を教えてほしいといわれ、夜になって電話をしたが誰も出なかった。前日、そのうち不動産屋から確認の電話が入るからよろしく頼むといってあったので、それだと思ったのかもしれない。時間を置いて二度かけたが、やはり誰も出ることはなかった。

 落胆したというより、ほっとしたような気持ちになった。昨夜、電話した時の雰囲気から、携帯番号を訊くためだけにまた電話することは気が重かったのである。三度目にかけて誰も出なかったとき、従弟の保証人を取り消してもらおうと思った。そう決めると、気が軽くなった。連帯保証人などというものは、親兄弟以外に頼むべきではないと強く思った。

 結局、もうひとりの連帯保証人は妻の従妹の夫に頼むことになった。彼は他に数人の保証人にもなっているはずだが、気軽に承諾してくれた。親戚同士、助け合わなければ異国では生きていけないといった妻の言葉が重く響いた。(2013.2.27)




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