逆ベストジーニスト

 2012年ベストジーニストが発表され、一般選出部門では男性は相葉雅紀さん、女性は黒木メイサさんがそれぞれ受賞した。一般選出部門とは、一般の人の投票により「最もジーンズが似合う有名人」を決めるものである。投票方法は携帯やPCで日本ジーンズ協議会のHPにアクセスしてするか、または葉書で投票する。2012年の集計結果を見ると葉書投票が287票、WEB投票が40459票となっている。

 選出される人が毎年、特定の事務所に偏っているということは、‘大人の事情’ということでさておき、今年の話題はほとんど一年中、ノースリーブのデニムベストとデニムのショートパンツで過ごしたスギちゃんが受賞を逃したことだったようである。何処のニュースサイトを見ても、‘スギちゃん、受賞を逃す’という文言が入っている。

 ベストジーニストには、一般投票の他に、日本ジーンズ協議会の加盟41社が推薦・選出した男女一名の候補者をもとに、ベストジーニスト選考委員会によって決定される協議会部門もあるが、こちらでもスギちゃんは選ばれなかった。

 スギちゃんが受賞できなかった理由についてある経済ジャーナリストは、「スギちゃんのせいで、今年流行るはずだったデニムのベストが全く売れなかった。スギちゃんが受賞できないのは当然である」と語った。要するにスギちゃんは‘逆ベストジーニスト’だったわけである。

 個人的にベストジーニストにはあまり興味はないのだけど、この経済ジャーナリストの言葉に引っかかるものを感じた。それは、「今年流行るはずだった」というところである。この経済ジャーナリストはデニムベストが流行るだろうと予測しているのではなく、流行るはずだったと予定を語っているのである。一体、誰が今年はデニムのベストが流行ると決めたのであろうか?

 それは当然、アパレル業界ということになる。予め流行るものを決めておけば、生産などにおけるリスクが回避できるし、効率的に儲けられるというわけである。使用する生地を大量に作り、早めに商品にしておけば、品薄状態になることもなく、どんどん販売することが出来る。勝つ馬のわかっている競馬というわけである。

 人間はみんなが買っているものを、買いたくなるという心理が働くため、流行らせるためには、それが流行るという情報を次から次へと出していく。まずは海外で流行っているなどという、一般の人ではなかなか確かめようのない情報を流し、あとは最大の宣伝媒体であるテレビでの露出を増やす。いろいろなタレントさんに、その商品を身に纏わせ、それが流行りであることを既成事実化していき、ショップなどでも‘これが今年のイチオシです’などと口コミで浸透させてゆくのである。

 しかし、当然のことながら、いつもうまくいくとは限らない。タレントの‘不用意な一言’によって、思わぬものが流行ったりしてしまうこともあるらしい。そして、今年の場合は、それがスギちゃんだったわけである。デニムベストを制服のようにしているスギちゃんが大ブレークし、テレビを占拠してしまったため、他のタレントさんはデニムを着ることができなくなってしまったのである。スギちゃんと共演する場合は、当然‘かぶる’ということになるだろうし、そうでなくてもノースリーブのデニムベスト=スギちゃんのイメージが、視聴者に固定化してしまったからだ。

 かくしてショップなどでも、デニムベストは‘スギちゃんみたい’という理由で全く売れなくなってしまった。一説では売り上げ予想を80%も下回っているという。今年の春夏のイチオシアイテムはこうして、ぽしゃってしまったのである。「スギちゃんが着て、デニムベストが大流行」という破れかぶれのニセ情報を流した番組もあったそうだが、ただ、虚しいだけであった。

 業界の思惑を身を持って粉砕した形になったスギちゃんはベストジーニストには選ばれなかったが、意識しないところでワイルドだったかもしれない。(2012.10.13)




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