ミミズ大量死のナゾ

 新鶴見操車場跡地という文章の中で、ミミズが大量死している場面を書いた。そこは、操車場跡地を貫く道路で、片側にはまだ草に覆われた広大な空き地が広がっている。つまりミミズにとっては、楽園のような場所なのに、何故そこを離れ、わざわざアスファルトの上に出て来て陽に照らされ、死んでしまったのかということが、心にずっと引っ掛っていた。それも一匹や二匹ではなく、数え切れないほどのミミズが…である。

 ネットで調べてみたら、いろいろと面白いことがわかってきた。まず、ミミズには当然のことながら、多くの種類があるということである。大まかに分けると、地面の表層に棲むものと、地中に棲むものである。地中に棲むものも、浅層と深層に分けられる。

 まず、地面の表層に棲むミミズである。この種類のミミズは昼間はごく浅い地面の中にいるか、落ち葉などの枯葉の下で生息しているらしいが、夜間になると地面を徘徊し、アスファルトなどに出て、朝になり、日光や乾燥によって死んでしまうことがあるという。また、生息地が高温になり、乾燥してくると、そこから逃げようと移動するが、その先がアスファルトなどの日光や乾燥から逃れられない場所だと干からびてしまうそうだ。

 次に地中に棲むミミズである。この種類のミミズは、乾燥しているときは、地中に潜んでいるが、雨の降った後、地上に出て来て徘徊するという。何故、雨の降った後、地上に出てくるかということは、意外にもまだ解明されていないようである。雨によって呼吸が苦しくなるからという説が一般的なようだが、他に生息地を拡大するためという説がある。

 ミミズは乾燥に弱く、体の表面が乾くと死んでしまう。したがって、乾燥しているときに移動することはできない。雨が降り、地表が濡れるということは、ミミズにとって移動することのできるチャンスが来たということになる。このときとばかりミミズは巣を出て、自身の生息域の拡大と交尾相手に巡り合うため、移動するというのである。

 さて、僕の見たミミズの大量死を思い起こしてみると、ミミズの死骸は道路の真ん中を越えているものもあった。そして、ほとんどのミミズが道路を横切る形で、干からびていた。これらのことから、表層に棲むミミズが、雨が降らなかったことにより、生息地が乾燥し、そこから逃れるために徘徊し、アスファルトの上に出てしまい干からびてしまったと考えるのは無理があるように思う。道路の端で干からびていたミミズの中には、表層に棲む種類のものも含まれているかもしれないが、乾燥した道路を何メートルも移動できるとは到底思えないからである。それにあの数である。集団で行動したと、考えるのが普通だと思う。

 地中に棲んでいるミミズが雨の降ったことにより、苦しくなりいっせいに出てきて、あのような惨状になったという仮定は成り立つように思えるが、同じ方向を向いて干からびていた姿から、‘統一された意思’のようなものを感じる。僕が心を動かされたのも、ただ単にミミズの死骸がたくさんあったというだけはなかったように思う。彼らの規則的な死骸から、雨が降ったことにより、生息域を拡大するため、新天地を求めて、移動したと考えた方が自然なのではないだろうか。

 だが、結局、新天地などは何処にもなかった。新天地を求めてアスファルトの上を這っていた彼らは昇った太陽に焼かれ、絶命していった。例え太陽から逃れえたとしても、その先は陸橋の下である。雨のあたることのないカラカラに乾き切った砂地だったのである。

 しかし、たとえ新天地に行きつくことのできない運命でも、彼らは雨が降り、移動のチャンスができれば旅立つ。行動しなければ、運命などわからない。生命はいつでも勇敢なのである。(2012.9.10)




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