おでん屋の少女 補遺

 このとき、いっしょに屋台で飲んだ僕たち三人は、その後、前後して全員会社を辞めた。最初に辞めたのは新人である。配属された部署の先輩とケンカして、そのまま辞めてしまった。二番目に辞めたのは年少の先輩である。彼は会社の将来性が不安になり、妻の実家が大工をしていたので、そこに弟子入りをした。

 年少の先輩の妻は、同じ会社でアルバイトをしていた女性である。所謂、できちゃった結婚だった。僕が入社したときにはすでに彼は妻帯者で子供もいた。彼は僕より一年だけ早く入社していたので、入社早々、やってしまったことになる。

 新人が「今夜は俺が女を世話します」と言い出したとき、僕は何かアテのあるものだと思った。多少の期待は、あったのである。それがいきなり目の前の少女を金で買おうとしたので、僕は驚くと同時に呆れかえってしまった。

 女性の年齢を当てるのは難しいが、おでん屋の少女の年齢は十七歳くらいだと思う。恐らく、おでん屋の主人の娘だと思うが、確認したわけではない。

 結局、最後まで年少の先輩が注文したおでんは出てこなかった。僕たちは最初から客とは思われていなかったようだ。

 約二十年前の話を何故、僕が鮮明に覚えていたかというと、メモを残していたからである。僕は文章を書くのが好きなので、印象的な出来事はメモを残すことにしている。当時の題は‘おでん屋の娘’としていたが、実際に娘かどうかわからないので、今回は‘おでん屋の少女’にした。(2012.5.20)




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