冷静な議論を

 低線量被ばくのほんとうのところに近づきたいと思い、専門家から一般の人のものまでネットでいろいろなサイトを見て回ったが、肝心なことはわからなかった。結局、結論としては‘低線量被ばくのリスク’に書いたように、ほんとうのところは誰にもわからないらしいということだ。そのことよりも、僕が寒々と感じたのは、まともな議論がほとんど行われていないということだった。

 それぞれの立場の人がそれぞれの立場でものをいい、他人の意見に耳を傾けることなく、自分の主張に固執して、一方通行のものばかりが目立ち、正邪入り混じって、どれがほんとうのことなのか、見極めることは甚だ困難な状況になってしまっている。ただ単に危機感を煽っているだけのような面白半分の主張も多く、何を信用していいのかわからない。

 こんなとき、政府がきちんとした基準を提示してくれなければいけなのだが、その政府の信用も失墜している。それは原発事故直後、スピーディのデータを‘住民がパニックになる’という理由で、公表しなかったため、放射能を浴びなくてすんだ人たちを被ばくさせてしまったことが決定的だった。その後の、避難勧告の基準を20mSvに引き上げたことにより、審議官が一人涙の会見の後、辞任したり、食物に関する暫定基準が変わったりして、さらに不信感を助長させる結果となった。

 今の日本では原発に関してまともな議論が成り立たなくなっている。原発は必要だとか、福島の原発事故で健康被害の起こる可能性は低いとか発言すると、東電の回し者とか、工作員とか呼ばれてしまうし、その反対に心配し過ぎると、風評被害を生むとか、放射脳とかいわれる。

 原子力の専門家のほとんど一致した見解は、被ばく量100mSv以下の影響は証明できないということと、被ばく量にしきい値のないということである。だから、どんなに被ばく量が少なくても、リスクを背負ってしまう人が出る可能性がある。それを、出来るだけ防ぐには、徹底的な情報開示しかないように思う。意見の違う人のことを揶揄するのではなく、議論を積み重ねていけば、真実の姿に近づけるような気がする。(2012.2.21)




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