座らない男

 朝、満員の通勤電車に乗っていると、座席に座っている乗客が降りて、席の空くことがある。そんなとき、その空いた席に誰も座らないことがよくあるのだ。

 僕の乗る駅は終点から3つめなので座れたとして2駅か1駅なのだけど、目の前の席の空いた場合、周りにお年寄りや体の不自由な人がいなければ座ることにしている。それは、自分が座りたいからということもあるのだけど、混雑している車内の状況を考えれば、席を空けたままにしているより、座った方が多少なりともそれが緩和されるからだ。

 ぎゅうぎゅう詰めの車内でぽっかり空いた席の前に立っている乗客が座ってくれれば、人ひとり分のスペースができるので、そこに誰か入ることもできるし、隣に立っている人との間にも多少のゆとりはできる。しかし、座らない人は意外に多い。

 若い人、女性、お年寄りはかなりの確率で座ってくれる。しかし、中年の会社員は座らない人が多いように思う。その理由として、終点まで2駅ということはあるだろう。これが7、8駅あるとなれば、ほとんどの人は目の前の席が空けば座るのではないだろうか?わずかな時間なのだから、座るという行為を面倒臭く感じるのかもしれないし、また駅に着いたとき、迅速に降りることができないということもあるだろう。

 そして、もうひとつの理由として、隣に立っている人を気にするということもあるように思う。何せ満員電車なのだ。目の前の席が空いたといってもそれは微妙で、隣に立っている人とどちらが座ってもおかしくないといった状況である。そういったとき、遠慮というものが生じるようで、女性やお年寄りは、それから自由であることが多いし、若い人はあまり感じないのかもしれないが、中年の会社員はどうしても隣を気にしてしまうようだ。同時に、隣の人とひとつの席に座ろうとして、気まずい思いをするということもある。変に気を使うくらいなら、初めから座らないと決めてしまった方が気が楽、というわけである。

 ただ、中年といっても外国人は別で、前の席が空けばほとんどの人は座る。またお年寄りや体の不自由な人を見れば、席を譲る。極めて行動が自然だ。結局のところ、空いた席に座らないというのは他人とあまり関わりたくないと気持ちの現れなのかもしれない。(2008.11.15)




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