リレー小説
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読みづらい登場人物名
前刀傑(さきとうすぐる) 垣内瑠香(かきうちるか) 京美紀(みやこみき) 畔柳赳夫(くろやなぎたけお)
2005年4月18日分 執筆者N島
「私が無神経だったよ。申し訳ない。」
前刀はテーブルに額をこすりつけるくらいに低く頭を下げた。
「さっ前刀さん、やめてください、頭を上げてください。」
急に頭を下げる前刀を見て、瑠香は慌てた。
自分の一回りも年上の大人の男性の頭を自分が下げさせている。
前刀という人間の誠実さが存分に伝わってきたが、自分のためにこれほどの用意をしてくれた大人の男性を謝らせることに非常に大きな罪悪感が襲ってきた。
−私は対等に接して欲しいと言いたかっただけなのに・・・
詰問するような言い方をしてしまったせいで、こんなに良い人にこんなことをさせている。
「前刀さん、年上の男性にそんなことされると困ります。私の言い方が悪かったです。ごめんなさい。」
瑠香もつられるように深々と頭を下げた。
「年齢の前に、私と瑠香ちゃんは人対人だから・・・不快な思いをさせたら、誠意をもって謝るのが筋だと思う。本当にすまなかった。」
年齢の離れた男女が向かい合って頭を下げあったまま動かないという奇妙な時間が流れた。
どのくらい時間が経ったであろうか。
どちらともなく笑い出した。
「はははは、折角のティータイムなのに、我々は一体何をしているんだろうね。」
「ふふ・・・本当にそうですね。」
瑠香が答える。
「本当にすまなかったね。私自身はそんなつもりは無かったのだけども、不快な思いをさせて。気をつけるよ。」
「こちらこそ、キツイ言い方してごめんなさい。」
コーヒーとケーキを口に運びながら、前刀と瑠香は会話を続けた。
会話をしながら、前刀の意識の半分は自問へと割かれていく。
前刀は思う。
瑠香ちゃんの先ほどの台詞・・・
[前刀さんは、どういう気持ちで私に会って下さるんですか?]
そう、私はどういう意図を持って、この少女に会いに来ているのだろうか?
会社の先輩の恩に報いるため?
それとも、命の灯火が今にも消え入るかもしれないこの少女に同情して?
もしくは、世間で何を言われるか分らないような年齢の離れた女性をパートナーにするためなのか?
世間・・・何故、世間などと言う物を考えるのだろう・・・
くだらない、そんなことはどうでもいい。
要は私だ・・・・・・・私なんだ。
私が何を思い、どうしたいのか。
それだけだ。
少女は確かに愛らしい。
しかし・・・
まだ、どれか1つに答えを絞るには早すぎはしないだろうか?
正直なところを言ってしまえば、私はまだこの少女のことをよく知らない。
積み重ねた年月も、共に話せるエピソードも無い。
現在のところはさっきの三つの動機が共に入り混じって、ここに来ている。
ただ、それを正直に言ってしまうことは、誠意ではない。
しかし・・・・この少女は何故、これほど性急に答えを求めるのだろう・・・
時間がないということもあるかもしれないが・・・・
どういう気持ち・・・・か。
少女は一体どんな答えを望んでいるのだろう・・・
まだ、分らない。
前刀は思考を中断してコーヒーを啜った。
一方、瑠香の方も会話をしながらも、目の前にいる男性について考えた。
口に含んだコーヒーの上品な苦味を味わう度に思う。
前刀さん・・・優しい人だな。
普通の人は絶対、こんなことしてくれない。
病室をカフェにしたり、私が言った言葉を真剣に受け止めて頭をさげるような、そんなに誠実な大人ってそうはいないよ。
それだけ特別扱いをしてくれている・・・
ただ、その特別扱いをしてくれるのはどういった気持ちからなんだろう・・・
確かめたい・・・
だけど・・・・前刀さんのことを私はまだ全然知らない。
知っているのは兄から聞いた前刀さんだけ。
すっごく良い人だと思った。
その前刀さんは一体、どんな子供で、どんな成長をしてきたんだろう。
普段、どんなことを考えているのだろう。
将来どうしたいのだろう。
もっと・・・もっと・・・前刀さんのことを知りたい。
瑠香は前刀の様子を見つめていた。
何か、考え事をしているような感じだ。
瑠香は再び、カップを手に取った。
続・・・・