リレー小説

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読みづらい登場人物名

 前刀傑(さきとうすぐる) 垣内瑠香(かきうちるか) 京美紀(みやこみき) 畔柳赳夫(くろやなぎたけお)


2005年3月28日分 執筆者N島

瑠香との面会から数日の日数が経った。
前刀は相変わらず、日々の仕事に忙殺されていた。

持ち帰った仕事に関しては、新しい人間との接点が、新鮮な刺激になったのか、思いもよらず捗り、仕事に厳しい畔柳からも指摘一つなしだった。

そのおかげで前刀の考えた新しいサービス戦略は、12月20日の毎月第3月曜日の定例会議で発表されることとなった。

今日が12月10日の金曜日だから・・・
再来週の週明けか・・・

前刀は一人呟く。

垣内瑠香と初面識を持ってから、既に1週間近く経つ。
そうだ、12月18日の土曜日にはまた病院に行くのだった。

プレゼン用の資料作りも、また自宅でやることになりそうだな。
そんなことを考えながらも、本棚を整理することを忘れていたことを思い出した。

本を持っていく約束もしていた。

ここのところ、仕事に追われていて書店にも行っていない。
実に久し振りであるが、仕事帰りに深夜営業している書店に寄ろう。

その時、上司の畔柳の口から自分の名前を呼ばれている事に気付いた。
前刀は席を立つと再び、業務へと集中していった。






腕時計を見ると、時刻は0:36だった。
いつもの11時45分の終電に乗り、最寄駅に着くいつもの時間だ。

前刀はたまに思うことがある。
仮に文明の発達が遅れていたり電車というものの存在を知らない人が見たら、電車は人食い箱に見えるかもしれない

奇異に映るだろうな。

わざわざ、毎朝、毎晩、並んでまで人食い箱に食われようとするのだから。

前刀は人食い箱から吐き出されると、改札へと降りていった。
前刀の住む○○○駅は出口が2つある。

東口と西口だ。

いつもの前刀は東口を出て直進し、最初の交差点を右に曲がったところにあるコンビニ「オーソン」で食事を買う。

そして、仕事柄陳列の仕方や拡大している商品等をチェックし、雑誌の表紙を一通り、眺め、世情を把握する。

先日は視聴期間限定のDVDが格安で販売されている事を知り、違法コピーや複製関係のセキュリティー事業も今後伸びるかもしれないと前刀は感じた。

オーソンから道沿いに直進し、徒歩5分の位置にあるマンションの6階に前刀は住む。

しかし、今日は西口から出た。
西口の目の前にある大手チェーン店「辰屋」で本を物色することにしたからだ。

店内に入ると、迷わず最新のミステリーコーナーへと歩を進めた。
本棚を見ると、林博嗣著の最新作「θは壊れたね」が発売されている。

小考後、前刀はその本を2冊手に取ると、レジへと並んだ。



前刀が自宅の扉を開けると、部屋の中の壁掛け時計は1時10分を回ったところを指し示していた。

レンジで暖めてもらった、コンビニの弁当を取り出す。
弁当の包装を破りながら、前刀は先週のことを回想した。

垣内さん、焦っているのかな・・・
それが正直な感想だ。

確かに、残された時間は短いのかもしれないが・・・・

いずれにせよ・・・
気に入ってもらえるかどうかは何度か会ってからだろうな。

前刀がさあ、弁当に取り掛かろうとした時、「L○t it be」が部屋の中に流れた。
前刀の携帯の着信音だ。

こんな時間に誰だろう・・・

不審に思いながらも、前刀は液晶画面を覗き込んだ。
そこには大学時代の悪友、高木徹の名前が表示されていた。


「もしもし」

「おお、前刀か久し振り。元気だったか?」

「ああ、なんとか。仕事に追われているけどな。」

「そうか、相変わらずのようだな。ところで・・・・今日は、そんなお前に朗報を持ってきた。」

朗報・・・その言葉を聞いたとき、前刀の背筋に悪寒が走った。
この悪友の朗報が朗報であった試しはない。

凶報の間違いではないだろうか。

「朗報?私の記憶では君の朗報は注意すべき災いの予兆だった気がしたが・・・」

「まあ、そう言うな。仕事に追われて楽しみの少なさそうなお前に合コンを持ってきてやろうと思ったわけだから。」

「合コン?また・・・怪しげな販売勧誘団体の女性スタッフの集会パーティーのことかい?」

以前に、合コンと称して高木が前刀を連れて行ったのは、一生物だからと言って、法外な値段の壺を売りつける女性販売員が主催するパーティーだった。

容姿が優れた女性を集め、訪れた男性に酒を勧める。
一人の男性に一人の女性がつく。

もちろん、ターゲットはそういったことに免疫のなさそうな男性だ。

判断力の低下とその女性の色気で、大体の男性は契約書に印鑑や拇印を押してしまう。

前刀はなんとか、その契約書に印を押すことなく、その場を辞すことができたが、散々な体験だった。

その後、高木を詰め寄ると・・・

契約書に印鑑さえ押さなければ、無料で容姿端麗な女性とお酒が飲める。
最高のパーティーじゃなかったかとの言に言葉を失った記憶がある。

今となっては、笑い話だが、当時は憤慨したものだ。

「集会パーティー?ああ、あれか。いや、今度は大丈夫だ。俺の会社の取引先の総務部の女の子達とだ。先方は化粧品会社だから・・・期待していいと思う。」

当人は日常茶飯事なのかすっかり集会パーティーのことなど忘れていたようだ。

「なるほど。それで、それはいつやるんだい?」

「ああ、来週の土曜日だから、12月18日の土曜日、新宿で7時からだ。」

19時から新宿。
瑠香ちゃんとの約束があるとは言え、面会は午前から午後にかけてで終了だろう。

信濃町と新宿はそれほど離れていない。
JRで3区間くらいだ。

だったら・・・たまには息抜きもいいかもしれない。

「で、どうだ?久し振りの話なんだから、付き合えよ。近況報告でもしよう。」

どうしようかな・・・・

前刀は・・・・・・



続・・・・