リレー小説

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読みづらい登場人物名

 前刀傑(さきとうすぐる) 垣内瑠香(かきうちるか) 京美紀(みやこみき) 畔柳赳夫(くろやなぎたけお)


2005年3月14日分 執筆者N島

垣内が病室のドアを明けると、眩しいくらいの日光が前刀の顔を照らした。
日当たりが良好な個室だ。

目の前には背の低い衝立が置かれており、病人を隠している。

衝立の上から見える窓の外には大きな欅の木がその顔を覗かせている。
夏であれば、生命力を感じさせる葉を青々と繁らせている様子を想像するのに難くない。

明るい病室だ。
病人には却っていいのかもしれない。

陰気な部屋では、再起をはかる生命の灯火がかき消されてしまう気がする。

それにしても、これほど広く良い個室を取れるということは・・・・
垣内家は相当の富裕層なのだろうか。

一般病棟の共同部屋でさえ、入院費は日割りでもかなり高額と聞く。
これほどの大病院で、これほどの病室ではどのくらい費用がかかるのだろう。

それとも、医学的にも貴重な病気ということで特別な配慮があるのだろうか。

「失礼」

そんなことを考えながら、前刀は病室へと足を踏み入れた。
垣内の後に続き、衝立を回り込む。



そこには、ベッドから上半身を起こした写真で見たとおりの美少女がいた。



「はじめまして。瑠香ちゃん、前刀です。」

「あっ、はじめまして。垣内瑠香です。お話はお兄ちゃんからよく伺っています。」

ノックをした時、慌てて髪を梳かしたのだろう。
枕元にブラシが置いてある。

写真とは違い、肩ぐらいまでだった黒髪は背の方まで伸びていた。

ブラシはサンレオという企業のキャラクターたく坊の絵柄が柄に書かれている。
そんな子供っぽさに少し安心する。

本当のお見合いのように、3回の面会で結婚とはならなそうだ。


前刀は左手の紙袋から丁寧に包装された品物を取り出した。

「ええとこれ、瑠香ちゃんとのお近づきにと思って、用意したんだ。良ければ使ってくれないかな。」

前刀は少女に手渡した。

「えっ、いいんですか?ありがとうございます。」

瑠香は戸惑いながら受け取った。

「あの・・・開けてみてもいいですか?」

「ああ、もちろんだよ。そのために用意したんだから。」

瑠香は女の子らしい白く細い指で、包装に貼られたシールを丁寧に剥がす。
包みを開けると、細長いケースが出てきた。

瑠香は、静かにケースの蓋を開けた。



出てきたのは、チョーカーだった。



チョーカーとネックレスの違いはその長さにある。

チョーカーはより首に密着したものを指すようだ。
先日のジュエリーショップの店員の言葉を前刀は思い浮かべた。

取り出されたチョーカーは中心に十字架をつけていた。
小さい十字架である。

銀製のそれの中央には5月の誕生石エメラルドがはめられている。
そして、十字架の4つの先端には真珠がついていた。

真珠の石言葉(こう呼ぶのかどうか前刀は知らない。)は健康・長寿・富である。

細かな装飾が施されたそれは、流行のセンスに疎い前刀にもこ洒落て見えた。

「・・・・・」
無言で十字架を見つめる瑠香に前刀は声を掛けた。

「気に入ってもらえたかな・・・・?」



続・・・・