リレー小説
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読みづらい登場人物名
前刀傑(さきとうすぐる) 垣内瑠香(かきうちるか) 京美紀(みやこみき) 畔柳赳夫(くろやなぎたけお)
2005年3月7日分 執筆者N島
前刀が在籍する会社潟TスーンはITセキュリティーサービスを提供している。
この社名は創業社長が学生時代に、ヘアデザイナーヴィ○ルサスーンの「成功が努力より先に来るのは辞書の中だけだ。」という言葉に深い感銘を受け、その努力の大切さをいつまでも忘れないために付けた社名である。
マーケティング部の企画課に所属する前刀の主な仕事は、顧客となる企業のニーズを拾い、その解決方法を見つけ出し、新しいサービス等を書面で提案することだ。
顧客の声を拾うため、取引のある企業にサービス導入後、困ったことや問題が発生していないか等の電話をしたりする。
今、前刀が格闘している仕事も顧客の声を元にした新サービスの提案書だった。
サービスの概要・新サービス提供に必要な人数・サービス対象・販売促進方法・販売方法、そういったものをすべて書面にし、上司を含む上役を説得しなければならない。
せっかく、見つけた顧客のニーズもグズグズしていては他社に先を越される。
それを避けるため、毎日終電という多忙な生活を繰り返しているのだ。
まだ、半分も終わっていない提案用の書類を片手に、前刀は時計を見た。
針の短針は22時を指している。
「もう、こんな時間か・・・・」
前刀は呟くと、周囲を見回した。
すでに前刀の部署を除いて、人の気配は無かった。
まだ、仕事をしているのは前刀とその上司である課長、畔柳赳夫(くろやなぎたけお)だけである。
垣内が転勤してからというもの、マーケティング部の企画課は前刀と畔柳の2名体制だ。
畔柳はとにかく仕事ができる男である。
他に趣味がないのかと陰口を叩かれる程、仕事一筋だった。
完璧な仕事を求めるその姿勢は部下にも甘えを許さない。
入社した当時、前刀はこの上司に散々怒られた。
そんなとき、いつも間に入ってくれたのが垣内である。
だから、前刀は垣内に少なからぬ恩義を感じている。
入社して5年になる前刀はもう、滅多なことでは怒られる事はないくらいには鍛えられた。
当時は畏怖の対象だったが、今ではこの上司に感謝をしている。
前刀は伸びをすると、別れ際に垣内から受け取った大学病院の地図を内ポケットから取り出した。
どうやら、信濃町にあるK大学病院のようだ。
面会時間は平日13:00〜20:00・土日10:00〜20:00とある。
垣内との待ち合わせの時刻は10:30だった。
前刀は用紙を綺麗に畳むと、ポケットに戻した。
そして、もう一度伸びをすると、再度仕事に取り掛かった。
前刀がサスーンを出たのは23:30だった。
畔柳はまだ席を立つつもりはないようだったが、お先に失礼しますと声をかけてから部屋を出た。
会社から徒歩10分にある駅でいつもの23:45発の最終電車に乗る。
週明けまでに提案書を出さなければならない。
残り半分。
前刀は深呼吸すると、人間が身動きできないほど詰まった長方形の箱へと吸い込まれていった。
翌日・・・
前刀はルーティンワークをすばやくこなしていた。
明日は約束がある。
特殊な形式とは言え、こちらの釣書を用意しないわけにはいかないだろう・・・
それに、手ぶらというわけにもいかない。
本来なら両家の両親が同席し仲人がいて、それぞれに手土産等が必要なのだろうが・・
しかし、何しろ急なことだし、垣内さん自身が付き添うわけだから、正式なお見合いという捉え方をしない方がいいな。
瑠香ちゃんが喜びそうな物を買っていこう。
そのためには、お店の営業時間中に会社を出なければならない。
期限が月曜日までの提案書に関しては、日曜日に自宅でやるとしよう。
そう決めると、前刀は集中して机に向かった。
18時を短針が過ぎた時、前刀は会社用のノートパソコンの電源を落すと脇に抱え、提案書を書くのに必要な資料を鞄に詰め込んだ。
いつもは終電までいる前刀が?と呆気に取られる周囲を尻目に、畔柳に月曜日の朝一までに提案書を提出する旨を報告し、前刀はフロアを後にした。
1階の受付を通るとき、帰り支度をしている受け付け嬢の京と目が合った。
「前刀さん、お疲れさま。あれ、こんなに早い時間のご帰宅なんて珍しいですね。どうしたんですか?」
相変わらず、オーバーアクションの京は目をパチクリさせている。
「ちょっと私用があってね。」
前刀が答える。
「あっ、分りましたよ。デートですね?」
「そう、男性社員全員の憧れの的である京嬢(前刀は京をこう呼んでいる)とね。」
前刀は軽口を叩いた。
「あはははは、前刀さんと約束した覚えはありませんよ。」
「そっか・・・・・そうだよな。忘れるよね、どうでもいい人との約束は。」
「えっ、本当に約束してましたっけ?」
京は急に不安そうな顔をした。
「冗談だよ、冗談。今日は私に私用があるだけだよ。」
「・・・・・」
京は頬を膨らませると、前刀を睨みつけた。
こういうオーバーなアクションが男心を刺激する。
狙ってやっているのかどうかは定かではないが、この受付嬢の人気が衰えない理由がここにある。
「ところで、京嬢。一つ教えて欲しいんだけど、最近の若い女の子が貰うと嬉しいものって何かな?」
「やっぱりデートじゃないですか。そうですねぇ・・・・女の子はやっぱり身につけるアクセサリーを貰うと嬉しいですよ。」
「デートではないんだけど・・・・なるほどね、アクセサリーか。うん、分ったありがとう。参考になるよ。」
そう言い残すと、前刀は会社を出た。
さて、どうするか・・・・
アクセサリーをプレゼントしようか・・・
しかし、あまり高価なアクセサリーをいきなり渡しても困惑するだろうし・・・・
かといって安すぎてはそれはそれでどうかと思う。
入院生活で精神的にも退屈な日々を過ごしているのだから、アクセサリーよりも気を紛らわせる物の方が良い気もする。
確か、瑠香ちゃんは読書が趣味だったよな。
書店に行ったほうが良いのだろうか・・・それともジュエリーショップだろうか
自分の釣書も用意しなければならない。
どちらに行こうか・・・
迷った末、前刀が下した決断は・・・・・
続・・・・