リレー小説
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読みづらい登場人物名
前刀傑(さきとうすぐる) 垣内瑠香(かきうちるか) 京美紀(みやこみき)
畔柳赳夫(くろやなぎたけお) 保科梨花(ほしなりか)
2005年11月27日分 執筆者N島
今後の予定などを考えながら、前刀は仕事をこなしていた。
年の瀬はやはりいつも忙しい。
だが・・・
毎年とは違ったプライベートの部分の忙しさが例年とは違っていた。
前刀は何故急に、繰り返されてきた日常に大きな変化があったのだろうか?などと自問する。
本当に・・・
変化というものは加速度的にやってくるものなのだな。
仕事に忙殺されながら、気がつけば24日の金曜日だった。
この日はやはり、年間の大きなイベントのためか、サスーン社全体でも、なんだかソワソワとして落ち着いていない。
なんだかんだといっても、日本人はイベント好きなのかもしれない。
前刀はルーティンワークをこなしていると・・・
壁にかかった時計の時刻は定時を指していた。
よくある事務的な円形のそれは、愛嬌も何もない。
ただただ、正確な時を刻むだけだ。
前刀はこの時計に勝手に渾名をつけていた。
その仕事ぶりから「お役人」と。
前刀が「お役人」を眺めていると・・・・
信じがたい事が起きた。
あの仕事の鬼である上司の畔柳が鞄を持ち、立ち上がるとタイムカードを手に取ったのだ。
同フロアにいる全員が驚愕した表情で、その行動を見守っている。
あの畔柳課長が・・・・
定時に帰る・・・?
急いでウェザーニュースを検索する者まで現れる始末だ。
だが・・・
本日の東京方面に大雪注意報はでていない。
思わず、前刀は声を掛けた。
「畔柳課長、本日はお帰りですか?」
畔柳は前刀の方を顔を向けると・・・・
「ああ、たまには私も早く帰ることもあるよ。」
落ち着いた口調で返す。
「珍しいですね、何かご予定があるのですか?」
ちょっと立ち入った質問だったかもしれないなと思いながらも、前刀は問いを重ねた。
その瞬間・・・
驚くほど畔柳の表情が柔和なそれになった。
「今年5歳になる娘がいてね、サンタさんを待っているんだよ。」
普段の仕事に厳しい畔柳からは想像もつかない言葉に、動揺しながらも・・・
「娘さん、きっと喜びますよ。」
と返すと、畔柳は嬉しそうな表情をし・・・
「前刀君、今日くらいは君も早くあがったほうがいい」という言葉を残すと足早に会社を出て行った。
皆が呆然としながら、それを見送る中・・・・
家族・・・・か・・・・
前刀は呟くと、書類をまとめ始めた。
なんだか、仕事を続ける気になれない。
たまにはすべてを先送りして、帰ってしまおう。
前刀は帰り支度を始めた。
続く・・・・