リレー小説

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2005年2月18日分

さぼわーるは前刀の会社から歩いて、2分もかからないところにある。
会社に戻るその間、前刀も垣内も無言で歩いた。

2年前に転勤したはずの先輩が東京に戻ってきている。
垣内さんの身に何か起きたのだろうか。

前刀は歩きながらも垣内さんの様子を窺った。
物憂げな表情とは対照的に、目には決意の光が宿っていた。

どうしたのだろう・・・
いつも、明るく笑顔を絶やさない人だった。

こんなに真剣な表情をする垣内さんを見るのは初めてだ。

声を掛けられたときは、2年前の先輩のままだったと感じたが、こうして見ると、明らかに違う。


―それはそうかもしれない。
前刀は思う。

あれから2年も経っているのだから。
変わらないほうがおかしい。

なんとなく、取り残されたようで前刀は寂しく感じた。

自社ビルの前に立つと、自動ドアが静かに開いた。
受付の京美紀(みやこみき)の笑顔が出迎える。

「前刀さんおかえりなさい。あら、垣内さん!!お久し振りです。」

珍しい来客に目を大きくしながら、京は大きな声で挨拶を振りまいた。
この、他の女性が不条理だと思えるほど可愛らしい容姿と過剰ともいえるオーバーアクションが男性社員全員に絶大な人気を誇る理由かもしれない。

確か、今年で入社3年目のはずだ。
短大を卒業してからだから、年齢は22か23。

「ああ、お疲れ様。久し振りだけど、今日も元気だね」

垣内さんが返す。

前刀も笑顔でお疲れ様と、この受付嬢を労った。

二人は1階の奥にある喫煙所へと向かった。
会社に特設されている自動販売機で、前刀はHOTの缶コーヒーを買う。

「Fain 微糖」と書かれたスチール缶を手に、前刀は垣内に視線を向けた。

垣内は静かに、煙草を懐から取り出した。
エイトスターという銘柄を今も変わらず吸っているようだ。

少しだけ、ほっとした。

「どうぞ」
前刀お気に入りのライターで火をつけた。

前刀自身は煙草を吸うことはなかったが、こうして吸う人の火をつけるために持ち歩いている。

媚びているかもしれないという疑問を感じたこともあったが、それで喜んでくれる人がいるならば、それもいいだろうと思い、今も離していない。

S.Sとイニシャルが彫られているそのライターは贈り物だった。
贈り主は今頃どうしているだろうか・・・・

とその時、垣内さんが急に口を開いた。

「前刀、実はな・・・・・」




続・・・・