リレー小説
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読みづらい登場人物名
前刀傑(さきとうすぐる) 垣内瑠香(かきうちるか) 京美紀(みやこみき)
畔柳赳夫(くろやなぎたけお) 保科梨花(ほしなりか)
2005年6月1日分 執筆者N島
おや・・・意外だな・・・
前刀は思った。
保科梨花は本当に私に興味を持ったのかもしれない。
彼女は私を変わっているとしきりに言ったが・・・
もしかしたら、私以上に、彼女は変わった女性なのかもしれないな。
前刀はメールを開くと・・・
その内容をあらためた。
土曜の夜のこの時間の電車は、空いてはいたが、上下の揺れは普段と変わらず、前刀は文字を読むのに手間取った。
前刀は普段から、あまり携帯でメールを使う習慣がない。
そのため、女性特有の顔文字や絵文字が豊富に使用されたメールはひどく読みづらかった。
というのも・・・・
こんなのや・・・
(∂。☆)
こんなの
:*.;".*・;・^;・:\(*δOδ*)/:・;^・;・*.";.*:
そして、こういった文字で埋め尽くされていたからだ。
Thank ☆☆** v(oδ▽δo)v**☆☆ You
前刀は一目見た瞬間、愕然とした。
一体、これはなんなのだ?
前刀は電車という日常生活の風景の1コマの中にいながらも、一人だけ別世界に迷い込んだような錯覚に襲われた。
眩暈すら感じる、これらの文字群。
話には聞いていたが、これが顔文字というやつなのだろうか?
実際にここまで顔文字が使用されているメールを当事者として受け取るのは前刀ははじめてだった。
前刀は、見慣れない顔文字と呼ばれる文字にカルチャーショックとも言える衝撃を受けながらも、なんとか内容を解読することに成功した。
保科のメールの内容を要約すると・・・
先ほどの飲み会は楽しかったので、また今度、開催しようといった内容だった。
前刀は読み終わると、ポケットにと携帯電話を戻した。
「仕事かい?」
高木が尋ねる。
「いや・・・先ほどの保科嬢からだったよ。」
「へぇ・・・それは、ますますもって前刀に興味を持った証拠になるのではないのか?」
高木は、顎を擦りながら言った。
この友人の癖の一つで・・・
意外に思うことがあると顎を擦る。
「どうだろうね。今度という言葉は社交辞令の常套句じゃないかい。」
前刀は応じた。
「社交辞令にしても、あちらからこのスピードでのレスポンスがあるということは、興味があると考えて差し支えないだろう。」
「まあ、そうかもしれないがね・・・・」
前刀は言葉を濁した。
「しまったな、あの子がそんなに積極的な子だったとは・・・俺がアプローチをかければ良かった・・・痛恨の判断ミスだ・・・」
高木は悔しそうに呟いた。
相変わらずだなと前刀は思う。
自分には変化を求めるが、他人は変わって欲しくない。
誰かが言っていた言葉を思い出した。
変わらない高木を見て、分る気がした。
不夜城とも呼ばれる新宿の街から、窓を横切る景色を眺めながらを電車に揺られていた。
夜のネオンが視界に入る。
前刀はネオンを見ると、何故か感傷的な気持ちになる。
あの、光のひとつひとつに人間がいる。
そしてその人間がそれぞれ、職や家族、そしてそれぞれの人との関わりをもっている。
ランダムにあの光の元で生活する人間を選んだとして・・・
その人間が持つ人とのかかわりの連鎖は、前刀の身近にいる人間を挟んで前刀ともつながっているかもしれないのだ。
そして、その間接的な鎖は・・・
なにかのきっかけで、直接的に前刀ともつながるかもしれない。
考えてみると、面白い。
人のつながりは。
今日、開催されたこの酒席で・・・
昨日までまったく赤の他人だった人間が知人に昇格する。
もしかしたら・・・・
それがまたもや何らかのきっかけで親戚になったり、友人の家族になったりするかもしれないのだ。
「返信はしないのか?」
前刀が一人思考をしていると、その思考を遮るように、高木が言った。
「ああ、あとでするよ。それほど余裕がなさそうに食いつく必要もないだろう。」
高木は黙って頷くと、乗り換えのために降りていった。
「またな・・・」
という言葉を残して。
続・・・・