N島日記5


                          2000年7月
N島は追い詰められていた。

手持ちの現金はわずか三百四十六円、これらであと二十日間を過ごさねばならなかった。
しかも彼には本業であるテストが四日後に控えていた。

無論彼の性格からして、一度もその授業にでたこともなく、新品の教科書は包装されたままで日の光を浴びてきらめいていた。

さすがの彼も現状に危機を感じたらしく、勉強する環境を手にするべく、珍しくも掃除を始めた。
そのときである、彼は以前祖母から送られた成人のお祝いの袋を発見した。

幸か不幸か、彼は以前教科書を買う予定でいれておいた四万円のうち、生き残りである一万円と再会した。

他の三万円はやはりというべきであろうか、その対価として存在するはずの教科書がないのにも関わらず、忽然と消失していた。

それらは所有者の最大最強の魔物、ギャンブルの虜となり、N島の元を去っていったのだ。

彼はテストが近いことを認識しながらも、その一万円札を握りしめると、選手宣誓のように力強く宣言した。

『あいつら(N島の元を去った諭吉3人)を振り向かせてやる!!』

彼は、ここまでも愚かであった。

負ければ金を失う、勝っても時間を失う、どちらに転んでも彼に希望は見えない。

それでも彼は自分の生き方を今更変える気など毛頭なかった。
そして、そんな自分が大好きだった。

彼と破滅は磁石のNとSであった。両者は互いに引き合うのである。たとえそれがどんな状況下においても…

彼は最後の財産を掴むと静かに町の雑踏の中へと溶けていった。
希望と言う名の破滅に向かって・・・