N島日記4


                          2000年

N島の望んだもの…

それは、変化だった。
それも、ちょっとやそっとのものではない劇的な変化だった。

時刻は明け方五時。
前日の午後五時から、麻雀を打ち始めてから十二時間。

彼の状況は極めて劣悪であった。とにかく、何を切っても当たるのである。

普段の彼はその理論で乗り切ってきたのに、その日はなぜかそれが通じなかった。
ロンという言葉をかけられる度に少しずつ狂気が彼を蝕んでいった。

なかでも、決定打だったのはドラ切りのダブロンであった。

このとき、蓄積された精神的ダメージは彼を正気の世界に留めておくのに必要な何かを崩壊させた。

すると、彼の頭の中に昔聞いたアニメの歌が流れてきた。

きたぞー♪きたぞ、アラレちゃん♪

そう、なぜかDrスランプアラレちゃんのテーマである。

その刹那、彼の脳内に衝撃が走った。

そして理解した。

俺はアラレちゃんではない。
あのアニメの主人公のように強くはない。

俺は・・・・


ヤラレちゃんだな、と。

何をやっても
ヤラレるのである。

そのことに気付くと、彼は呟きながら麻雀を続けた。

「ほよよー」
打四萬。

ロン、満貫。

「んちゃ。」
打九筒

ロン、ハネ満。

「バイチャ」

ツモ、6000オール。
飛び。

本当にバイチャだよ。

ヤラレまくりだ。

周囲は何事かと、彼をみたが、彼は楽しそうに呟きながらヤラレているだけだった。

無論彼の頭の中には、Dr.スランプヤラレちゃんのテーマが流れていた。

雀が鳴き、爽やかな朝日が昇る頃、ヤラレちゃんと化したN島はまだヤラレていた。

彼の敗退が確定したのは、午前八時であった。

彼は清算をすませると、財布を覗き込んだ。
夏目さんが三人。

昨日まで諭吉さんと稲造さんの二人がいたことを考えると、一人増えてるじゃんと純粋に彼は喜ぶことにした。

しかし、このような中途半端なヤラレでは彼は満足できなかった。
もっと、ひりつくような破滅が彼には必要であった。

ヤラレちゃんはさらなるヤラレを求めて、開店からパチンコをしにいくことにした。

そして、ヤラレちゃんは日の光を浴びながら走っていった。

キーンといいながら…

つづく