中尾帆遥さんの山下雅司俳句鑑賞



山下雅司さんの俳句に、中尾帆遥さんが評をつけたものです。皆さんの鑑賞の参考になさってください。


夕闇にとどまる梅の花の白 山下雅司

この句は、夕闇の迫る前から白梅を眺めており、暗くなってもなお、梅の白さが浮き立つさまを捉えている。「夕闇にとどまる」の表現により、夕闇の迫る時間の経過と白梅の景を上手く捉えた一句である。


雪虫のとぶころとなる山の色 山下雅司

雪虫 という言葉は初めて知りました。辞書を引くと 冬期、積雪上に現れる昆虫とのこと。掲句の「雪虫のとぶころ」の山の色とはどのような色だろうかと想像が膨らみます。


翔つ鶴に鋼の力ありにけり 山下雅司

鶴が両翼を広げ、羽ばたきながら地上から飛び翔つ姿は豪快である。その様子を「鋼の力」と詠み、力強さ、たくましさを表現したところに作者の感性の鋭さが伺える。また、飛び翔った鶴は上空を優雅に舞う姿も想像される。鶴の力強さ、優美さが伝わる感性豊かな一句である。


句碑に花映る耕二の除幕式 山下雅司

花吹雪の下での師の句碑の除幕式の様子が伺える。「句碑に花映る」の表現により、花吹雪が師の早逝を悼むとともに、その功績を讃えているように思う。同時に供華としての花びらの白が鮮やかに蘇る一句である。


風光る鳩と子供のゐる広場 山下雅司

公園で鳩の群れが餌を啄んでいる。その中で3、4歳位の幼子が遊んでいる。幼子が鳩に近づくと鳩は一瞬飛び立つ。鳩の群れの中に幼子の笑顔、そして笑い声が響く。風光るの季語がこの景を一段と際立たせている。


蟻走る水神さまの御前に 山下雅司

餌を運んでいる蟻でしょうか、懸命に働いている蟻たちを水神さまが優しく見守っているかのようです。万緑の山野の池の畔での小さな蟻の動きを上手く捉えた一句。蟻と水神さまの取り合わせがいいです。


鹿の子百合咲くや垣根の一二輪 山下雅司

鹿の子百合といえば雅司さんの故郷、甑島、この時期は、特に故郷へ馳せる思いが強いことでしょう。「垣根の一二輪」が郷愁を上手く表現しています。


母の忌や午後は晴れたる地蔵盆 山下雅司

私も京都に住んでいた頃、毎年地蔵盆には子供たちを連れ縁日に出かけたことを懐かしく思い出しました。この日はお母さまの忌日だったのですね。


稲の香を身に望郷の流れ雲 山下雅司

棚田では黄金の穂波が揺れており、空に流れる雲を見ていると故郷の稲田が思い出され、望郷の念にかられる。 先日は田植えの景であったが、同じく故郷のことが目に浮かんだことでしょう。雅司さんの故郷に馳せる思いは、「望郷の流れ雲」に強く表現されています。


星置といふ駅通る寒露かな 山下雅司

社員旅行での電車の通過駅を詠んだ句、「星置」という珍しい駅名に何かその土地の風土や景色など詩情をそそられるものがある。また、季語の 寒露が生きている。


伝承の奉納おどり神の留守 山下雅司

故郷の祭りは長年にわたりその伝統が引き継がれたものでありいつまでも遺したいものです。幼い頃の奉納おどりの景が目に浮かびます。


小春日や父におくれて母が来し 山下雅司

久し振りの父母との会食、さぞ、話が弾んだことでしょう。「父におくれて母が来し」には時間の流れと、お母さまが来て家族が揃ったことの喜びが伝わってきます。


トシドンに泣きべそかきし吾を思ふ 山下雅司

甑島の大晦日の伝統行事。テレビでもよく見かけます。東北では なまはげ が有名です。雅司さんが幼い頃を懐かしく思い出す様子が目に浮かびます。