「弧を描く」 同人誌「江南文学」54号(2007年7月25日発行) 掲載
空狭きほど鰯雲回遊す
中也忌の少し曲りし釘を抜く
山の端の木々細るまで秋日抱く
草の実をふるひ落として欠伸猫
人呼んで届かぬ先の照紅葉
電信柱電信柱刈田道
日溜りとなるを拒みて冬の川
木枯を一枚くぐり荒句橋
ホットケーキ親子ふつくら裏返る
揺椅子に溺れてしまふ冬の昼
なにやらの筒を抱へて十二月
元朝や約束の地に日矢さして
雪花舞ふ仏足石に星の滲み
独楽廻し流るるものは弧を描く
寒晴れのくらがり深き猫の耳
石に棲む虹のきらめき二月尽
葦の角水面の雲を釣り上げて
啓蟄や空には空の迷いごと
のらりくらり地鎮の岩に蛇の皮
物忘れする気安さに辛夷咲く
春の闇どこかに隙間ありさうな
山笑ふ記紀に荒魂和御魂
春愁や鞄左右に掛け替へて
春の夜の不眠の芯のありどころ
来し方の砂に沁み込む春の水
卒業と入学の間のうららかな
花芽喰ひ声の潤ふことりどち
路線図の余白を埋めて花万朶
溶け込めず弾けてしまふ石鹸玉
職業欄年令欄や万愚節
 
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