「湖の色」 同人誌「江南文学」53号(2006年12月25日発行) 掲載
をちこちに人根付きをり磯開き
葉桜やよく陽を溜める木となれり
魔境への鍵穴深く紙魚の跡
風鈴を下げて気負ひのなき暮し
図書館の床滑らかに走り梅雨
ダービーや牝馬贔屓の老詩人
沈むのをあきらめてまた泳ぎ出す
肩車すれば身を反り甚平の子
駄駄つ子の泣真似暑き袋小路
超空を偲ぶ山路の葛の花
朝顔の鉢を掲げて下校の子
さいはてといふまぼろしや土用波
大夕焼雲の抜け穴引き伸ばし
診療や大樹てつぺんだけ揺れて
俯けば我に繋がる秋の影
蜩やあめの匂ひの籠る杜
花野より花野へ向かふ現世かな
秋雨や早足やがて駆足に
稲妻や惑星ひとつ外さるる
秋深し羽音かすかに真空管
秋雨去る街に幾多の湖の色
苦言さらりとかはし秋刀魚の骨を抜く
捨てきれぬものは引き摺り虫すだく
 運動会五句
鰯雲集めて選手宣誓す
秋風のゴールテープを胸で切る
雷鳴に大将騎馬のたじろがず
声嗄らす名物教師運動会
運動会六年生の頼もしき
もう一粒加へてよそふ栗御飯
雲疾き雨月となりぬ草の波
 
Internet Explorer5.0以上でご覧ください。