「記念撮影」 同人誌「江南文学」52号(2006年6月25日発行) 掲載
うち湿る気配やいよよ虫すだく
朝寒や雀つひばむ石の影
木菟や月無き夜は耳隠し
模擬店の屋根に連なる紅葉山
雨の日は雨音を溜めどんぐりこ
団栗の割れて小さき魂覗く
長葱を解く生国の泥こぼし
煮凝やなにもなかつたやうな顔
仙蓼を目当てに鳥もこどもらも
街師走片靴捜すシンデレラ
かげひなたまた裏返し毛糸編む
その昔箱入り娘枇杷の花
藪柑子母を離れし日は遥か
いづこより転げ出でたる竜の玉
聖樹負ひ迷彩服の大男
初凪のたひらなる世を祈りをり
初夢や軒に膨らむ雪幾重
七草や唐土より来し雪曇
鏡餅おろして日々の音近し
クチコミの医療情報冴返る
早梅や少女呟くこと多し
独り居の雲を操る利休の忌
愛は時に剣の如し風信子
頬白の枝移りても我に向く
連翹や多弁詭弁の風騒ぐ
毬つけば影の離るる春うらら
こきざみに身を整へて蝶の径
卒園や梢はひかり蓄へて
記念撮影春光白く射し込みて
確かむる机上の広さ春休み
 
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