「あをき道」 2006年2月27日 同人誌「江南文学」51号 掲載
散り急ぎ散り敷きしのち春の星
蝌蚪の紐只今校舎巡回中
五月病カップの底に紅茶の葉
透き通る皿を重ねて夏近し
更衣行李に三面記事敷きて
隧道を抜けて踏み込む若葉闇
青田風一瞬呼吸整へて
甘酒に舌焼いてをり天邪鬼
曇天の影の重たし白薔薇
案内の旗畳みをる薄暑かな
ひとり来てふたり去る真昼の噴水
本音かも知れぬ失言網戸越し
水底に光の呪縛浮人形
土用照腹見せ眠る猫車
手花火を魔法使ひの如く振る
歩むとき翅持て余す羽蟻かな
予定なきひと日始まる朝曇
夏草に誘はれて影捨てに行く
嶺々渡る龍神雷を零しつつ
閃光や岩の裂け目に青蜥蜴
あをぞらの最上階に今朝の秋
盆飾小さく包み父送る
眠りから解かれて纏ふ銀河の尾
鰯雲湧き神々を富ましめよ
秋雨や斜線ばかりの予定表
地の湿る気配にいよよ虫すだく
薄野の底に眠れる声なき虫
灯台のあをき道曳く秋の海
蓑虫の軽さ固さよ参観日
かはらけの石となるまで柳散る
 
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