「はじめの一歩」 2005年8月2日 同人誌「江南文学」50号 掲載
天高し指に喰ひ込むレジ袋
ばつた跳ぶ身の上話また逸れて
枯葎揺るがしコイン精米機
様々の薬買ひ足す冬支度
日溜りに冬蜂軽く掃き寄せる
過去帳の墨新しき寒さかな
冬の街小島の如くベンチ置き
下書きのなき結末の落葉焚く
冬日向ここにて待てりと缶ひとつ
子ぎつねの落せし手袋かもしれず
身の丈をしばし忘れむ初景色
初凪や水平線といふひかり
闇逃がす穴ひとつ開け雪の洞
来し方も行方も雪の越後かな
松明けてひとりの昼餉省略す
たましひは不滅や否や窓氷る
寒夕焼橋まで伸びし塔の影
マスクして常より多き独り言
鉢の梅我が身にひなた引寄せて
白魚やなかったことにする話
春泥のはねてはじめの一歩かな
囀るは逃がした小鳥かも知れず
走り根の息づく如き雪解かな
つばくらめ買い物メモを読み返す
麗かや蓮座のうへに五円玉
蜆汁口開けもせず閉ぢもせず
鳴り龍の憩へる御堂初桜
飛花落花歌いだしたくなるやうな
春眠や子に置き去りにされる夢
花祭空をさしたる小さき指
 
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