「見えぬ支柱」 2004年12月29日 同人誌「江南文学」49号 掲載
聖五月翼の如き雲流れ
一粒の夢より醒めて麦の秋
透明になるは叶はず七変化
この谷戸が虹の終点濃あぢさゐ
裏表なき優雅さのレース編む
北京亭秘色の壺に金魚飼ふ
雨止みて皺伸ばしをるにはたづみ
道端の水をまぶしむ迷ひ蟻
落ちやすき甘さの枇杷や坂の家
風死してゲームセットの笛響く
片影や落書きの文字とんがりて
ベランダの一方を向く茂りかな
壁伝ふ紫煙の影や油照
河童忌の茶房頬杖ついてみる
金網に昼顔咲かせ厚木基地
未練なき魚の反転布袋草
みどりなすものに水打ち原爆忌
ソーダ水あるやなしやの噂聞く
窓の灯を点し帰燕の道標に
朝顔の名残の紺を絞り出す
約束を破られにゆく鰯雲
川の名を変はる橋にて鯊を釣る
秋天のN極となる避雷針
天蓋に映る秋麗弥勒仏
雲間から雲光りをる無月かな
草の実をつぶしてよりの走り癖
落花生玩びつつ独り言
秋日和コーヒーゆるやかに冷めて
蘭の香や見えぬ支柱にもたれをり
コート着てたちまち遠き背となれり
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