「馬耳東風」 2004年06月30日 同人誌「江南文学」48号 掲載
人恋しはちみついろに秋暮れて
意地つ張りショールの肩をいからせて
真暗闇なき東京の寒さかな
進退は告げず海鼠を噛みしめる
留守番の冬日まぶしき書を開く
ふく刺の如く理屈を並べをり
木の実独楽子の行く末を案じても
地を愛撫するため紅葉且つ散れり
少女泣く仔犬のような咳をして
木枯らしを耳に残して電話切る
そぞろ寒どのマニュアルも役立たぬ
冬至湯の香ごとタオルで抱きとめる
まやかしの林檎も吊るしクリスマス
冬夕焼橋のたもとの捨てカバン
手袋をはずし釣銭うけとりぬ
初刷のごそりと重きチラシ抜く
鳥総松父の遺せし一家言
幼子のでつぱりすべて寒荒れす
スケートの妖しき距離を保ちつつ
火星にも氷れる水や木菟鳴ける
鏡台に小瓶並べて日脚伸ぶ
東風吹けば光こぼるる砂時計
広告に恋して二月十四日
雪解けの流れ早くも曲がり出す
パンジーの並びし先にスコップも
馬耳東風背中に春の陽を溜めて
花三分寒さ七分の通り抜け
小さき嘘幾つ重ねて目借時
葉桜やときをり淡き詩をこぼし
みどりの日気付かず平和塗り替えて
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