大石隆子 かなの美 品切れ
大石三世子 編 定価 (本体2500円+税)
A4判 104頁(口絵8頁) ISBN978-4-8195-0238-2
日本を代表するかな作家・大石隆子先生の実際に指導する時に
使った半紙・折帖手本を掲載。読みやすく・習いやすい書風は、
かなを学ぶ人の最良の手本。口絵に作品をカラーで掲載。
内容 ・平仮名 ・変体仮名 ・連綿 ・散らし書き ・俳句
・和歌 ・手紙文 ・表書き
作者経歴 日展参事 ・ 読売書法展名誉会員 ・ 日本芸術院賞受賞
はじめに
99歳で母が他界してはや4年が過ぎました。この度日本習字普及協会より大石隆子の
かな手本を出版したいとのお話があり、早速お弟子さん達にお声をかけさせていただゞき、
半紙、折帖手本等を拝借、それに手持ちのものを加え、「大石隆子・かなの美」の出版の
運びとなりました。
母はかな書において一貫して形よりも線と色彩を第一に、そして品格のある書を大切に
考えていました。その線は古筆の臨書をくり返しくり返し練習し、象牙に彫刻をするように
細かい神経を使って書き、書けない時には古筆の目習いをしておりました。色彩は墨色の
濃淡のことで、作品全体の雰囲気をかもし出す重要な条件です。奇を衒う作品は好みませ
んでした。尾上紫舟先生が真髄しておられた粘葉本和漢朗詠集に結びつくところがあった
ものと思います。「仮名こそ貴重な日本の文化であり財産である。美しい仮名を伝える事が
大切。作品の散布(ちらし)は散らかすことではない、手紙は上手より丁寧に」というのがい
つもの口癖でした。また、尾上紫舟先生から和歌も学び、自分の歌を作品に書いたり、絵を
描くことも好きで作品に添えることもありました。音楽にも深く感心を持っておりましたし、歌
舞伎にも大変造詣深かった母でした。
これらの趣味と人生経験の数々が作品全体から伝わってくるような気がいたします。
口絵に掲載した手紙は72年前のものです。この出版にあわせたかのように偶然、横浜朝日
カルチャーセンターの母のお弟子さんの中村淑子様が私に届けて下さいました。母が中村様
のおじ様に差し上げた手紙です。墨色も鮮やか72年前とは想像もつかないモダンな便箋、
母に会えたようで感無量でございました。毛筆で書いたからこそ今だに大切に保管して下さ
ったことゝ感謝しております。
母はある本に「尾上紫舟先生、丹羽海鶴先生の門に学ぶことが出来たこと、人生において
よき師を得たことは私の最大の幸せでございました。教養を深く身につけた上で、そこから
滲み出てくる気品の高い文字を書きたいものでございます。」と残しています。常にこの姿勢
を崩さず筆を最後までとっておりました。