はじめての写経

    著者 石田春陵      定価 (本体2,300円+税)
    B5判  100頁       ISBN978-4-8195-0196-5


   写経は難しいものではない。
   本書は、はじめて写経に取り組みたいという人にも簡単に書けるよ
   うに編集しました。丁寧な図解と豊富な写真で、写経の実際を解説
   した、画期的な写経の入門書です。



 
cover
       



        

         

        

     はじめに

       今、写経が静かなブームといわれています。現代の複雑な社会機構の中にあって、少しでも
       心の安らぎを求める希いからでしょうか。それとも激しい競争社会の中で、焦燥と不安を解消
       し精神的安らぎを求める心の発露でしょうか。
       又私たちの生活姿勢が変化し、心身をリフレッシュして明日への活力を得るために、リクリエー
       ションを楽しむ人やスポーツに興じる人、芸能や文学に心を寄せる人などが非常に多くなりま
       した。このような時代的背景も、写経を志す人の増加につながっているように思います。
       最近は全国いたるところでパソコン教室が開催され、情報革命とも言われています。こんな時
       代に「毛筆による写経など時代錯誤もはなはだしい」といわれそうですが、こんな時代だから
       こそ写経なのです。
       たしかに毛筆に不慣れな現代人にとって写経するということ自体、かなりの抵抗を感じるかもし
       れません。しかし写経をすることで、苦手の細字に親しみ、心の豊かさと充実感を味わいながら、
       実用書道の勉強にもなるわけですから、その見返りは一石二鳥にも三鳥にもなります。
       より美しく、より整った文字を正しく書き揃えることはもとより、一枚の料紙に向かって、禅にも
       似た無念無想の境地にひたれるのが写経です。般若心経一巻二百七十余字を書き終えたとき
       の充実感は、写経したことのない人には味わうことのできない醍醐味です。
       写経は仏教の経典を書写することで、何も難しいものでは有りません。ですから一人でも簡単
       に始めることができます。その写経の中で最も親しまれているのが、般若心経です。   
       日本人にとって般若心経は、悠久千数百年の歴史があり、先人たちはこれを読誦し、写経して
       きました。この般若心経は、大般若経六百巻すべてを凝縮したお経で、これを写経すれば、大
       願が成就するという、真にありがたいお経だといわれています。
       ところで般若心経は本文二百六十二文字、前後の題目を合わせても二百七十六文字という簡
       潔なお経で、写経用紙一枚に写経できる短いものです。ですから写経は、まず般若心経から
       始めるのが順序といってよいでしょう。やがて写経も上達してきますと、もう少し長いお経を書い
       てみたいと思うようになります。そうなれば写経道も成功し、実力的にも完成に近づいてきたこ
       とになります。
       写経の方式、順序、作法などは、古来からの儀礼的なものもありますが、最初からそのことに
       こだわりますと、苦手意識が強くはたらいて、何も書けなくなってしまいます。何の気負いもなく、
       軽い気持ちで始めることが大切です。
       本書は、これから写経を始める人のために、専門的な難しいことはできるだけ避け、簡潔で判
       りやすい内容にすることを心がけました。そのために、写真や図版を多く用いて解説し、私が書
       いた般若心経の手本も添えてありますので、ぜひご利用ください。
                                                         著者