声だけじゃ―
トゥルルルル…トゥルルルル…
遠くで電話が鳴っている音が聞こえる。
首を巡らせて枕もとの時計を見る。
「0:00」
おいおい。こんな時間に誰だよ…まぁ、相手は大体予想つくけど。
出なきゃ、と思うものの睡魔に勝てず、ほったらかしてたら留守電になった。
―ただいま電話に出ることが…
留守電に切り替わるアナウンスの声に続き、電子音が鳴る。
そして、微かに聞こえてくる声。
『あ、もしもし。木村です。誕生日おめでとう。』
やっぱりな、と思わず笑ってしまった。
もうちょっと喋らせてから出てやるか、と思い、
やっと起きてきた身体で伸びをし、手を伸ばして床に無造作に置かれていた携帯を拾い上げた。
『…それだけ言いたかったんだ。夜遅くごめん…じゃあ、また…』
プツッ…ツーツーツー…
「えっ?」
思わず声が出た。
思いがけずあっさりと木村が電話を切ってしまったから。
何だよ、折角出てやろうと思ったのに。
トゥルルルル…トゥルルルル…
掛け直すかどうしようか迷っていると、再び手の中で携帯が鳴りだした。
「もしもし?」
今度は迷わずワンコールで出る。
しかし―
『あ、もしもし、中居くん?』
「え、慎吾?」
受話器を通して聞こえて来た声は木村のものではなかった。
『うん。誕生日おめでと〜!ね、俺が一番でしょ?』
「いや…」
慎吾の明るい声に思わず口ごもる。
『え、違うの〜?!なんだ〜、木村くんに先越されたか…』
「え?何で木村だって…」
思いがけず、俺が言うより先に慎吾の口から木村の名前が出て驚いた。
『何でって…木村くん以外にありえないでしょ』
「まぁ、な」
言われてみれば、それは確かで。
俺は、やっぱり掛け直さなきゃ、という気持ちが強くなってくるのを感じていた。
「ごめん、慎吾。ちょっと用事思い出したから、切るわ。わりぃな」
『了解。いいよ。お祝いの言葉も言えたし、充分満足!』
「じゃあ、そういうことで。お休み」
『お休み〜』
慎吾との通話を終え、一瞬ためらった後、やっぱり木村の携帯に掛け直すことにした。
トゥルルルル…トゥルルルル…
『はい…中居?』
「あ、うん。俺だけど…ごめん、その、電話…出られなくて」
『いや、こっちこそ夜中にごめんな。でも、1番に言いたかったから、さ』
と、受話器越しに聞こえてくる聞き覚えのある音楽に気付いた。
「あれ?木村、もしかして今、車?」
『あぁ。ちょっと…外で』
その音楽は、木村の車でいつもかかっている曲だった。
「やっぱり。どこにいるの?」
『いや、あの…実は、さ、中居の家の近くだったりするんだけど…』
木村が言い難そうにそう言った。
「何?こっち向かってんの?」
思わずにやけてしまったのを悟られないように、冷静に聞き返す。
『向かってるっていうか、もう着いてるっていうか…』
「マジで?」
木村の言葉に、慌てて窓を開け、下を覗き込む。
そこには、よく見覚えのある車が一台。
そして、すぐに木村がその中から出てきてこっちを見上げる。
『電話した時、たまたま近くにいてさ…電話、出なかったから、つい……来ちゃいました』
「何やってんだか。ハハ。ま、いいや。とりあえず上がって来いよ」
『ん、そうする』
電話を切ってから木村が部屋まで来るのを待ってる間、
また電話がどこかで鳴ってる気がしたけど、なんとなく出なかった。
留守電に切り替わって、お祝いのメッセージが聞こえてきている気がしたけど、
やっぱり出る気にはなれなかった。
今、一番聞きたいのは、木村の声だったから。
やがて、急ぎ気味の足音が近づいてくる。
ピンポーン
ドアベルが鳴り止むか鳴り止まないかのうちに、俺はドアを開けた。
「中居?」
珍しく、歓迎のムードたっぷりの俺にびっくりしたのか、木村が俺をマジマジと見てきた。
「お帰り、木村」
「…ただいま」
「それで?」
俺の言葉に木村が笑って、耳元に口を近づけてきた。
「誕生日、おめでとう。中居」
「ありがと」
「にしても…」
そこまで言って、木村はハハと笑った。
「何?」
「いや、今年は家まで来るつもりじゃなかったんだけどな。電話で済ませるつもりだったし」
「そうなんだ?もしかして、俺が電話出たら来なかった?」
「う〜ん、どうかな…それでもやっぱり来たかな。むしろ、声聞いて余計に会いたくなってたかも」
「実はさ、俺も木村の声聞いて会いたくなったんだよね」
「そうなの?」
「うん。俺、木村の声好き」
そう言ってにこりと笑ったら、木村は複雑そうな顔をした。
「声だけ?」
「さぁ、どうでしょう」
そしてまた俺が笑みを顔に浮かべると、木村もニヤっと笑った。
「本当、素直じゃないんだから」
「そう?まぁ、31歳になっても俺はこのままでいくからさ」
「了解しました、お兄様」
ふざけて木村が敬礼をした。
また1つ、俺は歳をとった。
それだけなら、特に嬉しいとか悲しいとかはあんまり感じない。
でも、特別な人と一緒にいられたら。
その日は本当に幸せな日になる。
そんなことを改めて実感した今年の誕生日。
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今回は、どうしてもBD終わる前に書きたかったので頑張りました。
眠気ピークの状態なので、あとがき書いても文章がめちゃくちゃ;
結局全部消して書き直し;
また、感想があればBBSでもメールでもいいんで、教えてくださいm(__)m
(2003/8/18 HINATA)