「ヤバイな…」
思わず声に出してしまい、慌てて周りを見渡す。
よかった、誰もいない。
今朝、帰国したばかりの木村の体調はあまり思わしくなかった。
原因は分かりきっている。
慣れない国での慣れない撮影に、疲労が限界に来ているのと、
そして、おそらく睡眠不足の所為であろう。
身体が重く、頭がガンガンしていた。
チラッと目の隅で中居の姿を確認する。
一番、勘付かれたくない相手であり、一番鋭いヤツでもある。
その中居は今はスタッフとの明日の打ち合わせをしていて、スタジオの反対側にいた。
中居もまた、指が使えない不自由さで疲れが溜まり、木村の体調に気を配る余裕はないだろう。
そう判断したものの、木村はそっとため息をついた。
しかし、いくらなんでもほとんど日本にいない生活を送っている今、
普段の木村であれば、いや、今の木村でさえもたまの帰国時に中居の家に行かないわけがないのである。
そうすれば、鋭い中居のことだ。
すぐに木村の体調に気付くであろうことは目に見えていた。
―中居と一緒に過ごしたい。
―でも、本人も本調子ではないだろう中居に気を遣わせるのは避けたい。
―いや、勘付かれたら家に入る事を拒まれることも考えられる。
「何やってんの?」
1人でぐるぐると考えていたら、頭上から声が降ってきて、慌てて顔を上げる。
そこには中居の不審そうな顔。
「いや…別に。考え事をちょっと…」
働かない頭を必死に回転させて、しどろもどろに答える。
「そっか…あのさ、木村。今夜、家来られる?」
「え?」
予想外の中居のお誘いに木村の頭はさらに混乱を来たしていた。
「無理ならいいんだけど。疲れてるだろうし…」
「いや、無理じゃないよ、全然。行くよ」
必死に平静を保って言葉を紡ぎ出す。
「じゃあ、もうちょいで打ち合わせも終わるから、先に楽屋戻ってて」
中居はそう言い残すとスタッフの元へと戻って行った。
中居からのお誘いなんて…いつぶりだろうか。
珍しいことが起こったためか、頭痛のためか、朦朧とした頭を一振りすると、木村は楽屋へと向かった。
「疲れた〜」
結局、その後数時間かかって打ち合わせを終わらせた中居を車に乗せて家へ帰りつくなり、
中居はそのままコタツに直行して倒れ込んだ。
「大丈夫?無理するなよ?」
そう言いつつ、部屋の暖房を付け、コタツも入れると、木村は中居の隣りに座った。
「そのセリフそのまんま返すっつぅの。あんまり溜め込むなよ?」
そう言って中居はコタツに頭をもたれさせたまま、木村を見上げると眉間に皺を寄せる。
やっぱり中居には敵わない、と苦笑いをすると、中居が当たり前だろ、と笑った。
「で、先に言っておきたいんだけどさぁ…」
と、急に中居が佇まいを直して木村の目を見る。
「何?急に」
「いや、あのさぁ…実は何も用意してないんだよね」
「何を?」
「だからその…」
中居が言葉を濁らして気まずそうな顔をした。
「何?」
中居の言わんとすることが読めず、木村は怪訝な表情を浮かべて中居の目を見返す。
「ほら、明日はさ。誕生日じゃんか、木村の」
「へっ?……あっ」
思い出した。明日は俺の誕生日だったっけ。
「えっ、何?忘れてたの?」
「すいません…」
「なんだよ〜、けっこう気にしてたのに損した」
そう言って中居は大きく伸びをすると、そのまま後ろに倒れこんだ。
「なんか気抜けた。けっこう勇気出して誘ったのにな、今日」
「そうだったの?」
「そうだよ。だってお前、なんか様子変だったし。なんか期待してんのかと思った」
「いや、それは…」
「何?やっぱりお前、今日変だよ、絶対」
中居が顔を近づけて目を覗きこんでくる。
木村は思わず目を伏せた。と―
ピタッ
「えっ?」
中居はそのまま自分の額を木村の額にくっつけていた。
「やっぱり熱い。木村、熱あるだろ」
「う…」
「何で言わないんだよ」
「だって言ったら、家来るなとか言われそうだし…」
「当たり前だろ!倒れたらどうするんだよ。お前1人の身体じゃないんだからな」
「…ごめんなさい」
中居の剣幕に思わず謝ると、中居は小さくため息をついた。
「なぁ、木村。俺だって出来るだけ一緒にいたいんだって。
でもさ、倒れたら元も子もないだろ」
「そうだな…」
「だろ?んじゃ、寝ろ」
「は?」
「は?じゃない。今すぐ寝ろ。休め。俺のベッド貸してやるから」
そう言うと中居は木村を促して寝室に押しやった。
「ちょっ、待て、中居」
そして閉められそうになった寝室のドアをかろうじて抑え、木村が中居の腕を掴んだ。
「何?」
「一緒に寝よ」
「だから、1人で寝た方が休まるだろ、っつってんの」
「いや、中居が隣りにいた方が安心して眠れるから」
「だけど…」
「お願いします!」
「……分かったよ」
木村の気迫に押され、中居は小さく頷くとベッドに潜り込んだ。
その隣りに木村も滑りこむ。
「あったかい…」
中居の身体をすっぽり抱きこむと、木村はそう呟き、しばらくすると寝息をたて始めた。
「…ったく」
中居は苦笑すると緩んだ木村の腕の中で体勢を変え、壁にかかっている時計を確認した。
午前0時5分。
「ほら、過ぎちゃったじゃないか」
言って木村の顔を覗くが、気持ちよさそうに寝息を立てている木村からは反応がない。
中居はくすっと笑うと、木村の額にキスを一つ落とした。
「おめでと、木村」
そう呟くと、中居はもう一度体勢を整えて目を閉じた。
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拓哉さんもついに31歳(笑)
ってことで、拓哉BD記念小説です。
拓哉さん視点気味です。
最近は中居さん視点が多かったので、ちょっと戸惑いました。
以前は中居さん視点の方が書けなかったのにな;
不思議なものです。
にしても最近寝オチが多い。
やっぱり自分の不眠症が影響してるのでしょうか(苦笑)
ではでは、感想をBBSまたはメールでお願いします。
お待ちしております。
(2003/11/13 HINATA)