Songs of Snow


その朝、久しぶりに気持ちよく目覚めると外がやけに静かなことに気がついた。

枕もとの時計を見るとまだ午前6時をまわったところ。

だけど、それにしては外がやけに明るいような気がする。

暖かな布団からエイッと抜け出すと、

滅多に開けないカーテンを開き、そのまま窓も開けた。

「うわ、雪…」

外は一面に広がる銀世界。

いつもなら渋滞はするし寒いしで嫌いな雪だったけど

今日は子供の頃のようにわくわくする。

少し厚めの服に着替えて、

久しぶりの散歩へと繰り出した。





「さみ〜」

外に出ると、刺すような寒さに思わず呟く。

サクサクサクサク

それでも、真っ白な新雪に音を立てながら跡をつけていくのは楽しかった。



サクサクサクサク



近所を一周ぐるりと回って、思う存分楽しんで家へと戻ってくると、

マンションの前に見慣れた車が停まっていた。

「あれ?」

そしてその車の中から降りてくる一人の男。

「木村…?」

「あ、中居。出かけてたんだ?」

木村はこっちに気がつくとそう言った。

「出かけてたっていうか、散歩してた。それよりどうしたんだよ?こんな朝早くに」

「ああ、雪降ってんの見たら中居に会いたくなって。ドライブに誘いに来た」

「何だ、それ」

木村の言葉に笑って見せながら、

『実は俺も会いたいと思ってた』なんてことは絶対口には出せない。

「いいじゃん、別に。行かない?」

「いいよ」

「お、素直。中居も俺に会いたかった?」

「何、自惚れてんだか」

「違うの?」

『ちげぇよ』

そう言おうとして少し躊躇う。

笑いながら"お見通し"って顔してる木村にちょっとムカついたけど、

同時に真っ直ぐな木村がうらやましくもあったから。

「そう思いたければ、思ってれば?」

でも、結局これが俺の精一杯の"YES"。

「んじゃ、そうする」

何がそんなに楽しいんだか、満面の笑みを浮かべながら、木村は何故か車の鍵を閉め、そのままこっちに向かって歩いてくる。

「あれ?ドライブすんじゃないの?」

「うん、気が変わった。ちょっと歩こう」

そう言ってそのまま俺の前を歩き出す。

「え〜、俺、もう十分散歩したんだよ。ドライブでいいじゃん、寒いし」

その背中に文句を言うと、木村が振り返って「仕方ないな〜」って顔をしながら引き返してきた。

「な?車にしよ?」

「だーめ。ほら、行くよ」

しかし、木村は俺の手をつかみ、自分のコートのポケットに手を繋いだまま突っ込むとそのまま再び歩き出した。

手が引っ張られるので、自然と俺も木村と並んで歩くはめになる。

「これでちょっとは暖かいだろ?」

確かに、繋いだ手からはぬくもりがじんわりと伝わってきた。

「まぁ、ちょっとは、な。」

「だろ?」

それに、木村が本当に嬉しそうな顔してるから、

まぁ、いっか、なんて気になってしまう。

「二人で歩くとまた景色も違って見えるよ、きっと」

「そかな?」

「そうだよ」

「そっか」

「うん」



サクサクサクサク



サクサクサクサク



2人の間にそれっきり会話はなかった。

聞こえるのは2人が歩くのに合わせて足元の雪がたてる音だけ。

2つに増えた音はさっきよりも心地よく耳に響いた。

サクサクサクサク

サクサクサクサク

―――幸せだな…

ふと、そんなことを思った。

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私の住んでるところにも雪が降りました。
例年より24日も早い初雪だったとか。
確かに、12月に雪が降ることなんて滅多にないもんなぁ。
そんなこと考えてたらこんな話が出来ました。
雪が降った日に書き始めたのに、
試験やらなんやらでアップまでこんなに時間がかかってしまいました(汗)
またオチも何もない話ですが、これが私の作風なんです(開き直り)
感想お待ちしておりますm(__)m
次はクリスマス作品。
間に合えばいいんですが…
(2002/12/18 HINATA)