さわさわさわ… 「…ん〜…」 額に何かが触れるくすぐったい感触で中居は目を覚ました。 「あ、起きた?」 目の前には度アップで整った顔。 寝起きの頭で状況把握しようと、その顔をじっと見つめる。 「何?」 「…木村?」 「せいか〜い」 そう言って木村はまた中居の前髪をいじり出す。 「そっか、夕べ泊まったんだっけか…」 そう言うと、くすぐったい感触の正体はこれだったのか、と中居は木村に背中を向けた。 「泊まったんだっけか、って…ちょっと冷たくない?」 木村が中居が離れて手持ち無沙汰になった手を眺めながら拗ねたように言った。 その声に中居は「しょうがないな〜」とでも言うように振り返ると、 「ん〜っ」、と伸びた。 「起きるか…」 そして、そのままベッドから降りると、さっさとリビングへ向かう。 「あっ、木村マッサージしてもらっていい?」 部屋を出る間際にそう言い残して。 「マッサージ…?」 木村は訳も分からず取り残され、首をかしげると、後を追ってリビングへ入っていく。 「腰が痛くてさぁ…」 ソファの上でうつ伏せに寝そべっていた中居が木村の顔を見てうめく。 「えっ、だって夕べは…」 「ちげぇよ。夕べは何もなかっただろ。腰痛めたっていったじゃんか」 「あぁ…その上2日間もライブやりゃ痛いわな」 「だから、マッサージ。木村、得意そうじゃん」 そう言って、中居は自分の腰をポンポンと叩いて木村を促す。 「まぁ、ね。じゃあやってやるよ」 「さんきゅ。あっ、TVつけていい?」 中居の横に座ってマッサージの体勢に入った木村の答えを待たずに中居がリモコンでTVの電源を入れる。 と… 「あっ、今日七夕なんだぁ…」 「そういえば…」 朝のニュース番組。 2,3回チャンネルを変えるが、何処も七夕モードである。 「笹の葉に短冊かぁ…もう何年もやってねぇな…いッ」 「あ、ごめん、痛かった?…今年は天の川見えっかな」 「いや、大丈夫。きもち〜。…七夕ってなんか雨多いよな」 マッサージに目を細めながら中居が呟く。 「でもさぁ…織姫と彦星って偉いよな」 「ん?」 「俺は1年に1回しか会えないなんて耐えられないよ。絶対どうにかして会いに行く」 「俺は…1年も会わなかったら心変わりすんだろうな」 「え…」 中居の言葉に思わず木村の手が止まった。 「手、止めるなよ〜」 「だって…」 そう言いつつも、逆らえずに再開する。 「…木村は1年も放っておいてなんかくれないだろ」 「え?」 「…心変わりする暇を与えてくれないじゃんか、お前は」 「…まぁ、ね」 「だからさ…」 「ん?」 「いや…心配いらないんじゃね〜の?」 「中居…」 「木村、また手止まってる」 「あ、ごめん」 うつ伏せになっている中居の顔は木村からは全く見えなかった。 でも、きっと天邪鬼な中居の精一杯の言葉だ、ということは分かって木村は思わず笑った。 「フフ…」 「なんだよ、気持ち悪いな」 「いや、可愛いなって思って」 「は?」 「ううん、なんでもない」 「なんだよ、それ〜」 そう言って、今度は2人で笑った。 何でもないことで誰かと笑いあえる時。 そんな時、人は何よりも幸せを感じられるのかもしれない。 その相手が誰よりも大事な掛け替えのない人であればなおさら。 そんなことをふと考えてしまうような幸せな朝。 その夜、結局天の川は見えなかった。 でも、きっと彦星はどんな手を使ってでも織姫に会いに行ったのだろう。 本当は毎晩のように彦星は織姫のもとにこっそり通っているのかもしれない。 年に1度きりの逢瀬…そんなのは形式上のことかもしれない。 それは当人たちにしか分からないことなのだから―
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