「なぁ、みんな今夜どうすんの?」
そう木村が聞いてきたのは、まだライブ後の熱が冷めやらない最終日の舞台裏だった。
時間は予定よりかなり押してしまっていたものの、
今年も無事にツアーを終えられたことが単純に嬉しくて、
俺はファンのコたちが帰って行く気配を感じながら浸っていた。
木村の質問に反応するのが少し遅れたのはその所為だ。
「僕は帰るよ。明日仕事あるから」
そう最初に答えたのは剛。
最近何かと忙しそうだからそれも仕方ないのだろう。
「僕も帰るつもりだよ…仕事はないけどプライベートで用事があるから」
そう答えたのは吾郎。
相変わらずマイペースなやつ。
そう思いながら視線を慎吾の顔へ移すと、
「ごめん、俺もこの後の生放送終わったら帰んなきゃ。明日記者発表あるんだよね」
と申し訳なさそうに答えた。
そこまで聞いたところで木村が苦笑いしながら口を開く。
「揃いも揃って…まぁ、しょうがないか。みんな忙しいんだな」
おいおい、俺まだ答えてないんだけど…
「本当、付き合い悪いよな、このグループは…」
「ちょっ、木村」
木村が話を終わらせようとしていたのを遮って慌てて話に割り込む。
「どうしたの?中居」
「どうしたの、って…俺の予定は聞かないの?」
「あぁ、そのこと。だって、中居は明日オフだからもちろん泊まってくんだろ?」
「んあ?」
予想外の答えに思わず間抜けな声が出てしまった。
「流石、木村くん」
「中居くんに関しては抜け目がないよね」
「本当に」
そう囁き合うメンバーの声が聞こえてきて、やっと状況を把握した。
「中居のスケジュールは既に確認済みだから、心配しなくていいよ」
木村が満面の笑みで言う。
どうやら俺は、墓穴を掘ってしまったようだ。
「いや、心配っていうか…でもみんな帰るんじゃ2人で残っても、な?」
「何で?いいじゃん。ゴルフでもしようよ」
「ゴルフはいいんだけどさ…」
「何?何か問題でもあるの?」
「いや、ないけど…」
「じゃあ、そういうことで。俺は慎吾と収録あるから先帰ってて」
「…分かった」
こうしてその日の夜は慌しく終わり、
次の日のゴルフもそれなりに楽しんだ俺と木村は2人して新幹線に乗り込んだ。
俺が窓側に、木村は通路側に座る。
間もなく新幹線は、音もなく滑るように動き出した。
「お疲れさま」
「お疲れ」
どちらからともなくそう言い合って顔を見合わせると、木村が優しい笑みを浮かべていた。
「たまにはこういうのもいいだろ?」
「え?」
「中居、この頃疲れ気味だったからさ。ライブも終わったことだしのんびりしてほしかったんだ」
本当は他のメンバーも一緒の方がよかったんだろうけどさ、と木村は苦笑した。
意外な言葉に思わずその木村の顔をじっと見つめる。
「何?」
「いや…ありがとう」
「どういたしまして。さて、東京まで一眠りしますか」
そう言って木村は自分の椅子を倒すと、ついでに身を乗り出して俺の椅子も倒す。
そしてこっちを見やって自分の左肩を軽く叩く仕草をした。
「ほら」
「何?」
「よっかかれば?その方が楽でしょ」
至って真剣な顔で言う木村に押され、素直に肩を借りることにした。
「さんきゅ。お休み」
「お休み」
頬から伝わってくる木村の体温を感じながら、やがて俺は夢の世界へと引き込まれていった。
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「真夜中の日光浴」1周年記念〜vv
本公開から1年。もうそんなになるんですねぇ。
これも来て下さる皆さんがいるおかげです。
本当にありがとうございます。
そんな日にも大した小説を書くことが出来ず、もどかしいです。
えぇ、空白の時間が話のど真ん中に存在してますが、
そこは皆さんの想像力でカバーしてください(←人任せ)
精進します。。
(2003/9/16 HINATA)