ピッピッピッ…
携帯の電話帳をなんとはなしにスクロールしていた指が思わず止まった。
「まさか、かけてこないよなぁ…」
自分で言っておいて悲しくなる。
「忘れてるってことはたぶんないんだろうけど」
あの人に限って。
でも、その自信すらも揺らいでくる。
僕にとっては大事な日なんだけどな。
あの人との歳の差が少しの間ちょっとだけ縮まる。
5つの差が4つになったところで何も変わらないのかもしれないけど。
たかが1歳。
されど1歳。
たぶんあの人はそんなこと、考えてもないんだろうけど。
そう、今日は記念すべき僕の誕生日。
昨日のうちにメンバーも祝ってくれた。
でも、やっぱり当日に「おめでとう」の一言が聞きたくなるのは、僕の我侭なんだろうか。
「えい、かけちゃえ」
思い切って通話ボタンを押す。
トゥルルルル…トゥルルルル…
呼び出し音が響く。
知らず知らずのうちに僕の手は汗ばんでいた。
情けない、たかが電話一本で。
「…はい」
何回かの呼び出し音の後、受話器からあの人の声。
「あっ…もしもし、中居くん?慎吾だけど」
「うん。どした?」
「いや、その…」
本当に情けない。
あの人の声を聞いただけで動揺してしまうなんて。
「あのね、中居くん…」
思い切って口を開いたその時。
『なかい〜!ちょっと手伝って!!』
受話器を通してあの人とは違う声が聞こえてきた。
『ごめん!今電話中で、手が話せないんだ』
受話器を軽く手で抑えているのか、くぐもってはいたけど。
あの人が返す声もその後から聞こえてきた。
「ごめん、慎吾。あのさ…」
「ごめん、なんか立て込んでるみたいだね。大丈夫、たいした用事じゃないから。どうせ、明日会えるし」
言い訳を聞きたくなくてあの人の声を途中で遮って一気に喋る。
「ほんと、ごめんな。じゃ、明日スタジオで」
あの人はそういうと、ためらう様子もなくすぐに電話を切った。
僕はと言えば、携帯を握ったまま力なく手を下ろして放心していた。
しょうがないことだろ、と自分に言い聞かせる。
そう、当然なんだ。
彼があの人の傍にいても。
僕は彼には勝てないんだから。
そして、僕は小さくため息をついた。
♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
と、不意に手の中で携帯が軽快なメロディーを奏でだす。
「もしもし」
僕は相手も確認せずにそのまま耳に当てる。
「あ、慎吾?」
「えっ、中居くん?!」
思いがけず聞こえてきた声に驚いて声が上ずってしまう。
「何、驚いてんだよ」
あの人が笑う。
「いや、かかってくると思わなかったから」
「自分が先にかけてきたんだろ」
「まぁ、そうなんだけど」
でも、あの人からかけてくるなんてことは今までも滅多になかった。
「いや、さっき言い忘れたことがあったからさ」
「言い忘れたこと?」
「うん。誕生日、おめでとう」
「…?!」
不意打ちの言葉に僕は声も出なくなる。
「おい、慎吾?聞いてんのか?」
「聞いてる、聞いてる!ありがとう!!」
「ん。じゃ、それだけだから。またな」
「うん、本当にありがとう。また明日ね」
「うん。それじゃ」
あの人の言葉をしっかり聞いてから、今度は自分から切る。
あの人との繋がりが切れてしまう音は聞きたくなかった。
全ての関係が断たれてしまうような気がして怖かった。
今はただ、この気持ちに浸っていたかった。
例え想いが届かなくても、彼の声を聞くだけで僕は幸せな気分になれるんだから。
「よしっ」
自分で自分に気合を入れる。
「26歳も頑張りますか!」
そう言ってとびっきりの笑顔を作る。
大丈夫、今年もなんとかやっていけそうだ。
HAPPY BIRTHDAY FOR ME!
26歳もよろしく頼むよ。
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Happy Birthday to SHINGO!
ってことで、慎吾BD記念小説です。
初のシンナカ(もどき)でしたがどうでしょうか。
かなり不安なんですが(^^;
これからは他のCPにも挑戦していこうかなぁ…
なんて思ってみたり。
まぁ、思うだけで終わりそうな気もしないでもないですが(苦笑)
(2003/01/31 HINATA)