ゲレンデのクリスマスツリー
まだ誰も踏み込んでいないゲレンデに1本の線が走る。
斜めに滑っていたかと思うと、今度は真横に真っ直ぐ滑る。
ゼフェルは何度かジグザグを繰り返すと、途中から真っ直ぐ滑って私の元に帰ってきた。
「もう一遍な。もちょっと待ってろ。」
そう言って、ゼフェルはもう一度リフトに乗って山頂へ向かう。
ゼフェルの銀髪が雪の白さと陽の光を反射してキラキラ輝いていた。
皆に内緒で2人っきりで来たスキー場。
ゼフェルらしく、穴場中の穴場を探したらしい。
泊まったホテルでは、お客である私達をとても珍しがっていた。
そしてゲレンデは、完全に貸し切り状態だった。
スキーが初めての私に対して、ゼフェルはスキーだけじゃなくスノーボードも難なくこなした。
あんまり綺麗なゲレンデなんで、これ以上穴ぼこだらけにしたくなくて、ゼフェルに『1人で滑って』ってお願いした。
ここで見てるから、思いっきり楽しんで滑ってきて…って。
ゼフェルは着ていたジャケットを、私に投げて寄こしてリフトに乗り込んだ。
『俺は滑ってっと暑っちぃからよ。おめー、寒かったら着ててもいいぞ。』
とか何とか言っちゃって。
寒がりのクセに。
嘘をつくのがヘタなんだから。
「ゼフェル。私のこと、どう思ってるの?」
絶対に聞こえないのが判っているからこそ、声に出してみる。
好かれてるとは思う。
でも、それが友情なのか、愛情なのか、判らない。
「あ……………。」
多分、頂上についたゼフェルが滑り出したんだと思う。
ゲレンデに、もう1本の線が描かれ始めた。
ゼフェルは今度は、さっきとは逆の角度で滑り始めたらしい。
「えっ?」
何回かのジグザグを見ていて、目を丸くする。
器用なゼフェルらしく、左右対称に一つの絵がゲレンデに描かれる。
それは……………。
「………アンジェ。メリークリスマス。」
最後に真っ直ぐ滑り降りてきたゼフェルが、私の目の前で止まって息を弾ませたまま呟く。
そんなゼフェルの後ろには、ゲレンデに描かれた大きなクリスマスツリー。
『どーせなら、誰も持ってないくらい大きなツリーが欲しいかったんだと思うの。』
随分前に、クリスマスの話題が出たときに話したことがあった。
私の親がとても小さなクリスマスツリーを買ってきて、小さかった私が泣いて怒った…って話を。
「俺…その…よ。おめーのこと嫌いじゃないぜ。おめーのことは……… 好き …だ。」
鼻の頭を真っ赤にして、ゼフェルが横を向いたまま呟く。
「………私…ゼフェルのこと好きじゃない。」
そう言うと、ゼフェルの顔が一瞬にして凍り付いた。
「そ…そうかよ。じゃあ、今の無しな。」
クルッと背中を向けるゼフェルに後ろから抱きついて小さな声で呟く。
「嫌だ。だってゼフェルのことはね。……… 大好き …なの。」