辿り着いた所
あいつの様子が変だと感じたのは随分と前。
『大分、無理してやんな。』
そう感じて、あいつを守りきれない自分がとてつもなく歯痒かった。
女王になったあいつと守護聖の俺。
お互いの気持ちは通じ合っている。
でも以前の…あいつが女王候補だった頃ならともかく、今は気軽に話すことも触れることも出来ない。
前の女王ほどではない…と言っても、やっぱ色々と周囲が喧しい。
だからあいつが無理しそうになると俺は、バレたら謹慎処分なんてモンじゃすまねーだろうけど、女王の私室に忍び込んであいつに触れていた。
いつもあいつは最初は俺を拒む。
自分達の立場ってモンを考えちまっているから。
だけど俺はあいつにぶっ倒られるよりはマシなんで、無理矢理にでもあいつに触れる。
補佐官のロザリアには薄々バレているらしいが、ロザリアは何も言わねー。
何よりもあいつの事を心配しているのはロザリアも同じだからだ。
そして何よりも、あいつの身体は正直だった。
俺が触れた翌日には、あいつの不安定さは微塵も感じられない。
だけど、ここんトコの互いの忙しさは半端じゃねー。
特に鋼の器用さが沢山の星々で足りなくなっていた。
こう言うとき、技術力の進歩って奴だけはマジに予測不可能で困る。
別に仕事をサボっていた訳じゃねー。
むしろ、あいつが女王になってからは俺は勤勉になったと誰もが認めていた。
それでもなお、鋼のサクリアが毎夜のように求められる。
だからあいつが無理をしているのが判っていても、俺があいつに触れられるチャンスは全くと言って良いほど無いに等しかった。
『あの莫迦。パンクしちまわなきゃいいんだけどな。』
作り笑いを浮かべるあいつの見たくもねー笑顔を見せつけられて、俺は今夜の育成を早めに切り上げようと心に決めていた。
だけどどんなに心に誓ったことでも、惑星へ力を送るってのはどうにも時間の掛かるモンで、俺が自宅に戻れたのは辺りがうっすらと明るくなり始めた頃だった。
軽くシャワーを浴びてベッドの中でウトウトとしかけた時、誰かが部屋に入ってくるのを感じた。
「誰だ?」
重い瞼を無理矢理こじ開けると、そこにピンクのネグリジェ姿のアンジェリークが立っていた。
「アンジェ?」
「ゼフェ……………。」
でっかい緑の瞳に透明な涙を溢れさせるアンジェリークに俺は掛け布団を持ち上げた。
「ほら。来いよ。」
呟くとアンジェリークは嬉しそうに近づいて、俺の隣りに潜り込む。
「…ったく。莫迦が。んなになるまで無理しやがって。」
俺の腕の中で安らかな寝息を立て始めるアンジェリークの額に口付けて呟く。
どうやら俺は、このまま眠れそうに無かった。
おそらく、もうあと少ししたら心配性の補佐官から電話が来るだろうから。
すっかり陽も登りきった頃、一本の電話が入った。
「ゼフェル様っ! 陛下がどこにも………。」
俺の予想通り、電話の主はロザリアだった。
「あぁ。そいつならどーゆー訳だか知んねーけどここにいっぜ。」
「はぁ? 何故ですの?」
「俺が知っかよ。明け方、部屋で寝てたら来たんだよ。」
「……陛下。眠ってらっしゃるんですか?」
「あぁ。よく寝てる。」
「判りました。今、迎えを寄こしますわ。」
「迎え? あいつが目が覚めたら連絡する。それからでも良いだろ。」
「……………そうですわね。判りました。お願いいたしますわ。」
「あぁ。じゃな。」
ロザリアは何となく状況を読み込んだらしくあっさりと納得した。
受話器を置いて、あいつが眠るベッドへと戻る。
「…ったく。こいつがどう言った理由でここまで来たんだか俺が知りてーぜ。」
眠るアンジェリークの隣りに潜り込み、柔らかな身体をギュッと抱きしめる。
鼻腔をくすぐるアンジェリークの甘い香りに包まれて、睡魔が俺を襲う。
朦朧としてきた意識の中で考えた。
どう考えても、ここに来た時のこいつはまともじゃなかった。
夢遊病…って奴なんだろうか?
無意識に自分の居場所を求めてさまよったのだろうか?
『俺はどんな時でもおめーを守る場所になってやるよ。』
安らかな寝息を立てるアンジェリークの柔らかな唇に軽く口付けて俺も深い眠りについた。
完全に目が覚めたときのこいつの反応が楽しみだな…などと思いながら。