その先には……
走っていた。
一生懸命、走っていた。
息が切れそうになっても足がもつれそうになっても、それでも私は走っていた。
後ろから大勢の人が私を追いかける。
知っている顔もある。
全然知らない人もいる。
皆もの凄く必死な顔をして私を追いかけていた。
何で私が追いかけられなくちゃいけないの?
私が何かした?
何であの人達はあんなに必死になって私を追いかけてるの?
訳も判らないままずっと走り続けた。
追いかけてくる人達もずっと追いかけ続けている。
『どっかに隠れる所でもないかな。』
そんな事を考えていたら目の前に沢山の小さな扉が見えた。
その中の一つに走り込む。
どれか…なんて、選ぶ余裕はなかった。
扉をくぐった先は意外と広かった。
どこかのホールみたいに沢山の座席があって、薄暗いライトが灯っているだけ。
『とにかく何処かに隠れなきゃ。』
後ろから聞こえてきた沢山の足音に、私は一番上の一番はじの席に腰掛けた。
私を追いかけてきた人達。
ここにいる私の姿は見えないらしい。
ホッ…と安堵の溜息を漏らす。
「遅せぇよ。」
突然の声にビックリして隣を見た。
いつからいたのか。
いつの間に来たのか。
ゼフェルが憮然とした表情で隣の席に座っていた。
「ここが一番安全だ…って教えただろーが。来んのが遅せぇんだよ。だから、んなに疲れちまうんだ。莫迦が。」
ゼフェルはそう言って私の前髪をかき上げた。
「ゼフェ……………。」
冷たいゼフェルの左手が走り続けて火照った額に気持ちよかった。
頭を撫でるゼフェルに涙が溢れた。
「…ったく。しょーがねー奴だな。ほら。来いよ。貸してやっから。」
ゼフェルは苦笑して両手を広げると、トン…と、親指で自分の胸をさした。
………良いのかな?
ホントに良いの?
「あぁ。もう。じれってーな。」
何となく戸惑っていたらゼフェルが私の両腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
ゼフェルの胸に顔を埋めて安心したのか、ずっと走り続けていた疲れが戻ってくる。
『このまま、誰にも見つかりません様に。』
機械油の染み込んだゼフェルに包まれて、私は眠りに落ちていった。
「………そいつならどーゆー訳だか知んねーけどここにいっぜ。………俺が知っかよ。……あぁ。よく寝てる。……迎え?あいつが目が覚めたら連絡する。それからでも良いだろ。……あぁ。じゃな。」
遠くの方でゼフェルの声がする。
チン…と受話器を置く音がして、私の方に近づいてくる足音。
「…ったく。こいつがどう言った理由でここまで来たんだか俺が知りてーぜ。」
『……………えっ?』
寝ぼけた頭で…でも、しっかりとゼフェルの声を聞いた。
掛け布団が軽く持ち上げられて、ベッドが軽く傾く。
ギュッ…と抱きしめられる。
機械油の染み込んだゼフェルに。
『これも夢…だよね。』
ドキドキしながら…でもそう思うことにして、私はもう一度眠りについた。
ここが一番安全な場所だから。