朝の風景


 真っ白な朝の日差しが室内を照らす。

 そのあまりの白さにゼフェルがおっくうそうに目を開いた。

「……………。」

 目の前に彼の天使が眠っている。

 その背に真っ白な羽がある訳では無いのだが、金色の巻き毛をシーツの上に泳がせて眠る彼女は間違いなく彼の天使だった。

 白い羽の代わりの白い肌には所々に赤く昨夜の名残が残っている。

 ほんのり赤い唇は彼を誘うかのようにうっすらと開いて穏やかな寝息をたてている。

 幼い表情は少女そのもので…しかしどこかに女の艶を含んでいた。

『こいつのこんな顔や姿…俺だけが見れんだよな。』

 薄手の毛布を被ったままぼんやりと彼女の寝顔を眺めていた彼の口元が自然と綻ぶ。

 普段の彼ならば、決して作ることの出来ない表情。

 ガキ臭い独占欲とか気恥ずかしさとか…色々な物が彼の心の中で混ざり合い、強い日差しの中では憮然とした表情しか彼女の前で表せられない。

 だけど朝のこの一時だけは…今だけは彼の意識は彼女への想いを素直に表面に表すのである。

『好きだ。好きだ。俺はこいつが好きだ。』

 彼のストレートな想いは朝の風景の中でストレートに彼の表情に表れていた。



『………この顔が好き。』

 うっすらと目を開いていたアンジェリークが心の中で呟く。

 いつだったか彼を驚かせようと思って眠ったふりをしていたが、逆に驚かされたのは彼女の方だった。

 今まで一度も見た事のない…彼が自分の事をどう思っているのかが一目瞭然な表情をして見せたから。

『おめーが好きだ。』

 彼は彼女が欲しいと思っている言葉を滅多に…どころか殆ど口にしてはくれない。

 でも二人で共に一夜を過ごした翌朝、彼は必ず自分の気持ちをストレートに出したままの表情を作ってみせるのである。

 それだけで充分だった。

 のべつ幕なしに愛の言葉を語る男よりかはずっと自分に合っている。

 夜空にふいに現れる流星のように驚きと感動を与えてくれる…彼と彼の見せる朝の表情が彼女は大好きだった。



『キス…欲しいな………。』

 ストレートに現れる彼の想いが彼女に伝染する。

 眠ったふりをしたまま寝返りをうって、誘うようにホンの少しだけ唇を動かした。

 と、驚いたような顔をした彼が愛しさが溢れんばかりに赤い瞳を細めてゆっくりと顔を近付けてきた。

『んっ……………。』

 重なる唇に彼女はうっすらと開いていた瞳を閉じた。

 真っ白な朝の風景に溶けてしまいそうだった。


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