月夜のハンター


 フワッと窓辺のレースのカーテンが揺れて黒い獣が私の部屋を訪れる。

 満月の晩だけやってくるハンター。

 ベッドの中にいない私を捜してキョロキョロと辺りを探っている。

 月影に隠れていた私をハンターの赤い瞳が捕らえる。

「…んだ。まだ寝てなかったのかよ。」

 ゆっくりと…しなやかな動きで近づくハンターから目がそらせない。

 身動きすら出来ない。

「………アンジェ?」

 浅黒い手がすっと私の頬に伸びる。

 私は小刻みに震える身体をそのままにゆっくりと瞳を閉じた。

 と…それが合図だったのかのように、もの凄い力で抱きしめられて息が止まる。

「今日は…やけに静かじゃねーか。いつもなら駄目だの何だのってうっせーのによ。」

 ニヤリ…と月明かりに半分照らされた唇の端があがる。

「だって…ゼフェル。どんなに駄目って言っても聞いてくれないんだもの。」

「…ったりめーだ。嫌なら俺が入れねーようにすりゃあ良い。なのに何でおめーはカギをかけねーんだよ。」

「だって……………。」

 窓辺を顎で指すハンターの言葉に言い淀む。

「だって…何だ?」

 俯いてしまった私の顔を覗き込むように身体を屈める。

「あなたを……………待ってたの。」

「ホントに今日は素直だな。おい。」

 クッと喉の奥を鳴らして意地悪な顔で笑うハンター。

 でも…良いの。何とでも言って。

 だって私は金色のウサギだから。

 満月の夜に現れるハンターにだけ捕食される金色ウサギ。

「アンジェ……………。」

 黒いハンターが私を食べる。

 唇が…手が……身体全体で私を食べ尽くす。

 もっと…もっと食べて。何もかも。

 肉も骨も…何にも残さずに………。



 あなただけだから。私を食べて良いのは。

 私だけだから。あなたに食べられて良いのは。


もどる