宝探し
粗雑な彼の性格をそのままに表した散らかり放題の部屋の掃除をしていた手をふと止める。
セピア色に色あせた1枚の写真。
「……こんな頃からなんだ。」
写真の中の赤ちゃんの姿にクスリと笑みを零してしまった。
スパナを握りネジで遊ぶ赤ちゃん。
おおよそ赤ん坊の遊び道具とは到底思えないそれが幼い頃の彼の喜ぶ最大の遊び道具だったのだろう。
困惑顔の…見ることの叶わぬ彼の母の姿を想像してしまう。
愛されて愛されて…とても慈しんで育てられただろう事は容易に判断できる。
だってこんなに散らかり放題の部屋の中で…色はセピア色にあせてしまっているのに写真はキチンとラミネートが施されているから。
普段の乱暴な彼からはとても想像できない。
他の写真だったら『たかが写真』…とそのまま放置して、ビリビリに破れてもその存在すら気にしないだろう。
だからこの写真は彼にとってとても大切な物なのだろう。
「これ…貰っちゃ駄目かな? ……またかよ。って怒られちゃうかな?」
写真を眺めたままポツリと呟く。
私はまるで宝探しに夢中になってる子供みたいに毎日のようにこの部屋を訪れて…散らかった部屋を片付けるの。
だって楽しくて嬉しくて仕方ないの。
こうやって彼の部屋のあちこちを片付けていくと色々な物が出てきて。
見つかる宝物は毎日沢山。
普段は決して教えてくれない彼の家族への愛情だったり、ぶっきらぼうな優しさだったり、ホンの少しの寂しさだったり………。
宝物が増える度に私の中で彼への想いが溢れてくるの。
この胸が一杯になったらどうなってしまうんだろう。
「こら。おめーはまた。なーに見てやがんだ。」
ぼんやりと考えていた私の後ろから彼の声が響く。
にゅっと肩越しに浅黒い彼の手が伸びてきて私の手から写真を奪おうとするから私は慌てて彼の手から写真を死守した。
「こんにちは。ゼフェル様。……言いましたでしょ? 毎日、お掃除に来ますね。って。」
「で、人の持ちモン一個ずつ捕ってくんだよな。おめーは。…ったく。今日の戦利品はそいつかよ。」
ばつが悪そうに頭をかきながらゼフェル様がぼやく。
「ダメ…ですか?」
ちらっと…上目遣いで顔を覗き込むと、スーッと赤い瞳が細められて…ハァーっと深い息が唇から漏れた。
「……………勝手にしろ。」
ぼそっと小さく呟かれた言葉を私は聞き逃さなかった。
「ありがとうございます。大切にしまっておきますね。それじゃ。失礼します。」
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
今の私に出来る最高の笑顔をゼフェル様に向けて部屋を出た私はぴょんぴょんと兎のように廊下を飛び跳ねながら部屋に戻った。
部屋に戻った私はそっとベッドサイドのテーブルの引き出しを開けた。
中にはゼフェル様の部屋で見つけた私の宝物。
一つ一つを手にとって見て…もう一度セピア色の写真を眺める。
何となくだけど…判っちゃった。
さっきの疑問の答え。
『この胸が一杯になったらどうなってしまうんだろう。』
きっと一杯になんかならないの。
コップに入れた水が表面張力を起こして膨らんでいるみたいに…私のゼフェル様への想いは決してしぼんだり減ったりはしないんだろう。
だって…宝探しが毎日毎日『ゼフェル様への想い』ってコップを大きくしていってくれるから。
小さな赤ちゃんの写真にそっと唇を寄せてベッドの中に潜り込む。
明日は…どんな宝物が見つかるかな?