ゼフェルの楽しみ
鋼堂は表向きは古美術などの収集販売を行っていたが、裏ではかなり高利な金貸しを行っていた。
「うちもボランティアで金を都合した訳じゃねーんだからよぉ。あんたが社員じゃ話になんねーっつーから俺が直々にかけてんだぜ? きっちり払って貰わねーと困るぜ。」
「あのぉ…社長………。」
貸付先に電話をしていたゼフェルの元に、社員の1人が恐る恐る入ってくる。
「明日、きっちり払って貰うぜ。………どした? 今日の取り立てはすんだのか?」
「それが……………。」
「失礼します。」
おどおどした様子の社員の後ろから突然現れて頭を下げる金髪の女性に、ゼフェルは驚いたように目を丸くした。
「誰だ? あんた。」
「こちらからお金を用立てて頂いたリモージュの娘です。アンジェリークと言います。」
「リモージュ……。あぁ。確かに貸したな。おめー。今日はそこに取り立てに行ったんだよな。なんで娘が来るんだ?」
「それが…そのぉ………。」
「借金の返済の代わりにここで働かせてください。」
「…………………………。」
社員を睨み付けたゼフェルはアンジェリークの言葉に黙りこくった。
「しゃ…社長?」
「どーゆーつもりだ。この大馬鹿野郎っ! 俺りゃあ借金の取り立てはさせっが人買いまでやれとは言ってねーぞっ!」
「私が無理矢理ついてきたんですっ!」
「………………………………………。」
アンジェリークの叫び声にゼフェルは再び黙りこくる。
「私が社員さんに無理矢理くっついて来たんです。確かにお金を借りておいて返さない父は悪いです。でも、ここの利息は高すぎます。借りたお金の全額を返せるとは思っていません。だけど月々の利息分だけでも私がここで働いてお返ししたいんです。」
「社長。このお嬢さんがこう言って譲られなくて………。」
「おめーは出てろ。」
「は…はいっ!」
ゼフェルの言葉に社員は安堵しきった様子で部屋を出ていった。
「お嬢さんよぉ。あんた、自分の言った言葉の意味。判ってるのか?」
「勿論です。」
「あんた。自分の父親の借金を身体で払う…っつったんだぜ?」
「判ってます。」
『おーおー。無理しやがって。』
微かに青ざめ震えているアンジェリークにゼフェルがそんなことを思う。
「身体で払う…って意味も判ってんだな?」
「……………。」
頭のてっぺんからつま先まで、アンジェリークの身体を何度も往復させるように眺めてゼフェルが席を立つ。
無言のまま頷いたアンジェリークの身体がビクッと震えた。
「も一回聞くぜ? 父親の借金。あんたが身体で払うんだな?」
「は…い………。」
左手でアンジェリークの顎を掴んで上向かせたゼフェルが顔を近づけて尋ねる。
アンジェリークはきつく目を閉じて震えながらも肯定の言葉を口にした。
『…ったく。この強情っぱりが………。』
ゼフェルは嫌で嫌で堪らないのを必死に堪えているアンジェリークを見ていて楽しくなった。
「あんた…秘書の資格。持ってっか?」
「えっ?」
唐突なゼフェルの言葉にアンジェリークがきつく閉じていた瞳をパッチリと開く。
楽しくて仕方ない赤い瞳が驚いたようなアンジェリークを映す。
戸惑った深い森の緑が子供のようなゼフェルを映していた。
「秘書だよ。秘書資格。持ってねーのか?」
「いえ。持ってますけど………。」
「なら決まりだ。あんた、今日から俺の秘書な。言っとくけど口答えは許さねーぞ。」
ニヤッと笑うゼフェルにアンジェリークが戸惑ったように頷く。
『これから楽しくなりそうだぜ。…っと。これくれーは良いよな。』
「きゃ…。」
自分から離れていくゼフェルに緊張を解いたアンジェリークが、もう一度自分と密着するゼフェルに小さく悲鳴を上げる。
「……………。取りあえず…明日っから、もちっと胸の開いた服とか、もちっと丈の短けースカートはいて、目の保養させろよな。」
長い口付けから解放されて全身をぐったりとさせたアンジェリークの身体を支えながら、ゼフェルは金色の髪の毛にそう呟いたのだった。