ロボ・コン


「それでは参ります。3・2・1・スタート!」

 司会の女の甲高い声を合図に2台のロボットが同時に動き出す。

『…っし。』

 俺は心の中でガッツポーズを取った。

 相手校のロボットよりスピードも馬力も…性能の何もかもが、俺等の作ったロボットの方が上だった。

 全国工業高等専門学校ロボットコンテスト。

 通称、ロボ・コン。

 普通の工業高校機械科に通う俺等の技術が、高専の奴等相手にどこまで通用するか。

 それが知りたくて出場した大会だった。

 予選の地区大会の時は俺が操縦した。

 結果はギリギリ僅差で辛うじて優勝。

 そして出場している全国大会。

 テレビ放映があるってんで、今回、俺は裏方に廻った。

 予選後に改造したロボットのメンテに集中したかったし、人には向き不向きってモンがある。

 司会の連中にマイクを向けられて…にこやかに話すなんて芸当を俺が出来るわけがなかった。

 勝負はあっけなくついた。

 圧倒的な強さで俺等の勝ち。

 ロボットの操作をしていた仲間が俺に向かってガッツポーズを取る。

 俺も左手の親指を立てて合図を送った。

 裏に引っ込んできたロボットのメンテを始めたその時……………。

「すごかったですね。」

 感動しきったような声が後ろから掛けられた。

 振り返るとそこには、入場の時に俺等の学校のプラカードを持っていた地元の女子校の女が、緑色のでっけー目ん玉を落っこちそうなくれー見開いて立っていた。

「私、ロボットコンテストが大好きで毎年見てるんです。でも、こんなに綺麗で格好良くて強いロボットは初めて。次も頑張ってくださいね。」

 にっこりと笑う女の相手はステージに上がる3人に任せて俺はメンテに集中する。

 だけど女の言葉に悪りぃ気はしなかった。

 何しろこのロボットは今の俺等に出来る最高傑作品だったから。

「…っし! 出来たぜ。次もかましてこいよ。」

「任せとけ。」

 メンテが終わってステージに向かう3人にはっぱをかける。

「頑張ってね。」

 さっきの女までもが俺の隣で激励の言葉を仲間に投げていた。

 俺等の作ったロボットは快進撃で次々と勝ち進んでいった。

 そして迎えた準々決勝。

 スタートと同時に飛び出したロボットが途中で突然動きを止めてしまった。

 驚きでテレビに映らねーギリギリの所までステージに近寄る。

 何がトラブってんのか…こっからじゃ良く判らねぇ。

 それにもう修理の出来るエリアを越えている。

 手の出しようが無かった。

 操縦していた仲間が困惑した表情で俺を見る。

 俺は静かに首を横に振った。

 そして試合終了。

 引き揚げてきたロボットのチェックをその場で始める。

「………判ったのか? ゼフェル。」

 溜息をついた俺に、見守っていた仲間が聞いてくる。

「こいつだ。」

 身体をずらしてドロドロに溶けてモーターにこびりついたゴムを仲間に見せる。

「何でこんな………。」

「モーターの回転熱で溶けちまったみてーだな。」

 愕然と呟く仲間に、俺は未だにかなりな熱を帯びてるモーターを取り外しながら呟く。

「回転熱って……。俺がスピードアップさせようっつったから………。」

「そうじゃねー。これは俺のミスだ。」

 申し訳なさそうに呟く仲間の言葉を否定する。

 地区大会を辛うじて優勝した俺等のロボットがここまで頑張れたのはスピードアップを図ったから。

 スピードアップを提案した奴は悪くねぇ。

 高速回転による摩擦熱を失念していた俺が全部悪い。

「………帰っぞ。」

 暗い気持ちで沈んだ仲間に声を掛ける。

「あ…あのっ!」

 全員が押し黙ったままノロノロと動き出した時、俺の服の端をさっきの女が掴んだ。

「あの…私ね。私、来年もあなた達の学校のプラカードを持つ。絶対にあなた達の学校のプラカードを持つから…だから来年も来て。ね。絶対に来年も来て。」

「あ…あぁ。」

 女の必死な表情に惑いながらも頷く。

『来年もロボ・コンに出場する。』

 長いようで短い目標が俺等に出来た。


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