キーホルダー
「チャリ。チャリ。」
ゼフェル様が退屈そうに手の中の物をもて遊びます。
「チャリ。チャリ。チャリ。」
執務室の扉に背を向けてステンドグラスの窓からぼんやりと外を眺めながら……。
『何でこんなモン作っちまったのかな?』
薄い金属プレートを眺めながらゼフェル様は思いました。
シンプルな装飾を施したキーホルダー。
おおよそいつものゼフェル様からは想像できない物でした。
『どうすっかな。これ。……………あいつにでも………。』
ふとよぎった考えにゼフェル様は慌てて頭を振りました。
「ん? ……よぉ。おめーかよ。」
軽いノックの音と共に聞こえたアンジェリークの声にゼフェル様が振り返ります。
手の中の物を机の上に放り投げ、ほんの少し笑顔を見せて…大好きな少女を迎え入れました。
「これが何かって……。見りゃ判るだろ。キーホルダーだよ。キーホルダー。……気に入ったんならおめーにやるよ。」
好奇心旺盛なアンジェリークが瞳をキラキラと輝かせながら尋ねます。
そんなアンジェリークにゼフェル様は照れたように机の上のキーホルダーを投げてよこしました。
「……んだよ。やっぱ、そんなモンいらねーか?」
驚いたように目を丸くして受け取るアンジェリークにゼフェル様は憮然とした表情で尋ねます。
「俺がやるっつったんだから良いんだよっ! 欲しいんならつべこべ言わずに素直に受け取りやがれっ!」
戸惑ったように手の中のキーホルダーを見つめるアンジェリークにゼフェル様は怒鳴りました。
こんな言い方しか出来ないんですから仕方ない方ですよね。
『あ……………。』
嬉しそうに笑顔を作ったアンジェリークにゼフェル様は思い出しました。
先日、アンジェリークが家から持ってきたオルゴールの鍵を落として半べそ状態で探していたのを………。
その鍵は偶然、ゼフェル様が拾っていました。
鍵を手渡した時のアンジェリークの安心しきったような笑顔と目の前の笑顔は全く同じものでした。
「………ああ。おめーが鍵落としたって大騒ぎしてた奴か? そう言ゃそんなコトもあったよな。あん? ……莫ー迦。自惚れんのも大概にしろってんだ。なんで俺がわざわざおめーの為なんかにキーホルダー作らなきゃなんねーんだよ。」
アンジェリークの呟きにゼフェル様は照れたように顔を背けました。
無意識とは言えキーホルダーを作ってしまった理由が判ってゼフェル様は顔から火が出そうな感じがしてました。
「!!!!!!!!!」
横を向いていたゼフェル様の頬に柔らかいものが当たりました。
慌てて振り返ったゼフェル様は顔を真っ赤にさせたアンジェリークと至近距離で向き合っていました。
「ア……………。」
自分の頬に触れたものの正体に、ゼフェル様は真っ赤になって言葉を失います。
「ま…待てよっ!」
ゼフェル様以上に真っ赤な顔をしたアンジェリークが扉へ向かって一目散に走ります。
そんなアンジェリークをゼフェル様は執務机を飛び越えて追いかけました。
「待てって言ってっだろ! この……………。」
執務室の扉を開けて一歩外へ出た所でゼフェル様はアンジェリークを捕まえました。
そのままアンジェリークの唇を塞ぎます。
誰が通るとも判らない聖殿の廊下での事です。
アンジェリークはゼフェル様の胸をどんどんと叩いて抗議しました。
「……………どうせだったらこっちにやってけ。莫迦。」
ゆっくりと唇を離したゼフェル様はそう呟くとアンジェリークを廊下に残したまま執務室の扉を閉めました。
後に残されたアンジェリークは執務室の扉を背にズルズルとしゃがみ込んでしまいました。