アンジェが倒れた
「……目が覚めたか?」
ホンの少し眉間にしわを寄せて目を開いたアンジェリークの目にゼフェル様の姿が映りました。
憮然とした表情で…心なしか怒っているようです。
「あん? どうして…だと? この…莫迦野郎っ! おめーが倒れたってロザリアに聞いて…俺は心臓が止まりそうになったんだぞ?」
熱があるのか潤んだ瞳で尋ねるアンジェリークにゼフェル様が怒鳴ります。
これは…相当怒っているに間違いありません。
「怒ってる…って……。当たり前だっ! このボケっ!」
ほら。やっぱり。
うっすらと涙を浮かべるアンジェリークにゼフェル様は『莫迦・アホ・ボケ』の連発です。
「な…泣くんじゃねーよ。…ったく。おめーは泣きゃあ良いと思いやがってよ。……いいか? アンジェリーク。俺はな。今回ばかりは本当に怒ってんだぞ。」
本格的に涙を零し始めたアンジェリークにゼフェル様が慌てます。
アンジェリークの瞳に浮かんだ涙を指で拭いながら少しだけ怒りを鎮めたような口調になりました。
「ば…違げーよっ! 誰がおめーの大陸の育成状況が悪いからって怒るかよ。何で嫌いになんなきゃなんねーんだよっ! 俺が怒ってんのはよぉ……………。」
『嫌いにならないで。』と訴えるアンジェリークの言葉をゼフェル様が否定します。
少しだけゼフェル様の頬が赤くなりました。
「………俺が怒ってんのは…こんなに倒れるまで無理して……。なのに何も言わねーおめーに怒ってんだよっ!」
顔を赤くして言うゼフェル様にアンジェリークは目を丸くします。
「判るか? アンジェリーク。……何でおめーはこんなになるまで無理すんだよ。何で一言『しんどい』って言わねーんだよっ! この俺にっ!!!」
顔を覗き込むように手でアンジェリークの両頬を挟んだゼフェル様が苦しそうに怒鳴ります。
まるでアンジェリークが倒れてしまったのは自分の責任だとでも言うように……。
「……んだよ。そのツラぁ。俺はな。俺に何も言わねーで倒れたおめーに心底腹立ててるんだからな。」
驚きで呆然としているアンジェリークにゼフェル様はふてくされたように呟きます。
ゆっくりとゼフェル様の顔がアンジェリークに近づきました。
「……………しんどいならしんどいって言え。この莫迦。」
そっと唇を離したゼフェル様がアンジェリークの唇に息がかかるほど間近でそう呟きます。
「謝んじゃねーよ。反省してるなら今度からは俺にちゃんと言え。良いな。アンジェリーク。」
『ごめんなさい。』と呟くアンジェリークにゼフェル様が言い渡しました。
「………良し。大陸の事なら心配すんな。俺が力を贈っといてやるから。ゆっくり眠れ。」
コクリと頷くアンジェリークにゼフェル様は目を細めました。
もうゼフェル様は怒っていません。
「……………仕方ねーな。安心しろ。眠るまで側にいてやるから。」
帰ろうとしたゼフェル様のマントをアンジェリークが掴みました。
溜息と共に苦笑したゼフェル様がアンジェリークのベッドのはしに座ります。
アンジェリークのおでこに左手を置いてそのままじっと見つめました。
「………もう…無理すんじゃねーぞ。アンジェリーク。……………俺が側にいんだからよ。…ったく。」
安心しきったアンジェリークがスースーと寝息を立て始めた頃、ゼフェル様は赤い瞳に優しい色を浮かべて呟きました。
短く舌打ちしてゼフェル様はホンの少し開いているアンジェリークの唇にキスをしました。