夜汽車に乗って


「カタタン。カタタン。」
 単調なリズムを繰り返して暗闇の中を電車が走る。
 車窓を流れる家々の明かりを俺はじっと見つめていた。


 何でかは知らねーけど俺はガキの頃から時たま無性にどこかに行きたくなる衝動にかられる事があった。
 自分の居場所を求めるように当ても無くブラブラと彷徨い歩き、気が済むと家に戻る。
 親父もお袋もそれについて特に咎めはしなかった。
 それを良い事に俺は年齢を重ねるにつれて、その放浪日数と放浪範囲を徐々に広げていった。
 守護聖として聖地に連れて来られてからもそんな放浪癖はおさまらなかった。
 初めて俺の放浪癖がこの地で顔を出した時、俺は即座に聖地を抜け出して…すぐに連れ戻されてしまった。
 少しも気のおさまらない内に連れ戻されたのがシャクで再び聖地を抜け出す。
 何度連れ戻されても抜け出す俺に女王補佐官のディア様が俺を女王の前に連れていった。
『これはガキの頃からの俺の癖なんだよっ!』
 何故そんなに聖地を抜け出すのかという女王の問いに俺はそう答えた。
 女王は……顔はよく見えなかったが、驚いたように口元を丸くして…すぐに微笑んで言った。
『では。その時には許可を差し上げましょう。』
 ……………と。
 人間ってのは不思議なもんで、駄目と言われると何が何でもやっちまう事が、いざ許可を貰うと出来なくなる。
『こんな所、いつか出ていってやるっ!』
 いつもそんな風に言っていた俺だが、女王の許可付で放浪していると、何故か自然に聖地に戻ってきていた。
 いま考えてみると、親父やお袋が俺の放浪癖について何も言わなかったのはこの辺にあるんじゃないだろうか?
 流れる光りを見つめながら俺はそんな事を考えていた。


「あの………。」
 突然聞こえた女の声に俺は通路に立つ女の姿をガラス越しに見つめた。
 ゴテゴテとしたフリルに無意味とも思える位レースのついたワンピース。
 胸元にそいつの緑の瞳と同じ色のコサージュ。
 俺と同じ位の年だろうか?
 そいつはいつまでも振り向かない俺を困ったような顔で見つめていた。
「………何だよ?」
「ここ…座っても良いですか?」
 半分だけ顔を通路に向けて尋ねると、そいつはちょっとホッとしたような顔をしてそう聞いてきた。
「………構わねーよ。」
 俺の返事に安心したような顔をしてそいつは俺の隣りに座った。
「……………。」
 思わずマジマジと女の顔を見てしまった。
 俺が座っていたのは四人掛けのボックス席。
 しかも一人きりで……。
 普通だったら向かい側の開いてるトコに座るんじゃねーだろうか?
 そうしてハタと気付いて周りを見回す。
 こんな夜遅くのローカル線。
 乗っている客はこの車両には俺とこいつの二人きり。
「………よぉ。わざわざここに座んなくても開いてる席は山程あるぜ?」
「ご迷惑…でしたか?」
 怪訝そうに尋ねる俺にそいつは寂しそうな瞳を見せた。
「あの…さっきまで他の車両にいたんですけど……。一人で座ってたら寂しくなっちゃって……。それで…あなたの姿が見えたから………。ごめんなさい。やっぱり他の所に行きま……………。」
「おいっ! 別に迷惑なんて思ってねーから座ってろよ。」
 泣きそうな顔で立ち上がりかけたそいつの腕を引っ掴んで再び座らせる。
 そして俺は車窓に視線を戻して、さっきまでとは違う風景を眺めていた。
 ガラスに映る俺の隣りに座っている女の姿を……。
 そいつは俺と同じように窓の外へと視線をやって…時折窓越しに視線があって慌てたように俯く。
 そいつの金色の髪が動く度にキラキラ光って…凄く綺麗だと思った。
「……よぉ。」
「あの……。」
 二人、ほぼ同時の問いかけだった。
「な…何ですか?」
「おめー。何処まで行くんだ?」
「えっ? 私は……その………。あの…あなたは何処まで行くんですか?」
「あ? 俺か? ……そうだな。今日は取り合えずこのまま終点まで行って適当に宿とって…後はそれからだな。」
「じゃあ。私もそうです。」
 笑顔で言うそいつを再びマジマジと見てしまった。
 旅行者…って言うには手荷物が無さ過ぎる。
 家がこっちにある…んならあんな答え方はしねー。
「おめー…まさか………。」
 家出か? と言おうとして切羽詰まったような緑の瞳に言うのを止めた。
「まっ。おめーが何処に行こうと俺には関係ねーや。」
 車窓に視線を戻しながら呟く。
 ガラスに映ったそいつはホッとしたような笑顔を見せた。


 駅の構内を歩く俺の後ろをあいつはチョコチョコとついて歩いた。
『何でついて来んだよ。…ったく。………。』
 溜息を一つついて、どんな辺鄙な駅でも必ずある情報案内のコンソールの前に立つ。
『……………此処か。』
 コンソールのパネルを操作して再び歩き出す。
 あいつはやっぱりチョコチョコとついて来た。
「お客様のゼフェル様でいらっしゃいますね。お疲れでございましょう。お迎えに伺いました。」
 駅の改札を出た直後だった。
 さっき構内のコンソールで宿泊の予約をしたホテルの従業員らしき男が慌てた様子で迎えにきてた。
 そりゃ、そうだろう。
 何せ俺が予約に使ったのは女王府が発行したカードだ。
 女王府に関係ある人間以外は持つことの出来ねーカードを使ったんだ。
 きっと今頃、ホテルは上を下への大騒ぎだろう。
「お荷物はこちらでございますか?」
 持っていた布製のリュックを受け取りながら尋ねる従業員に俺は後ろを顎でシャクった。
「あぁ。それとあいつ…な。」
「はい! ……ささ。お嬢様もどうぞ。車にお乗り下さい。」
「えっ? えっ? あの…私は………。」
 送迎用の車に乗り込む俺の後ろからあいつは従業員に押し込まれるように車に乗った。
「あの……………。」
 戸惑ったようなこいつの声に俺は何も言わない。
 車はあっと言う間にホテルへと到着する。
 従業員総出の出迎えにげんなりした。
 これがあるから俺は滅多な事では女王府のカードを使わない…ほとんどを野宿で過ごしている。
 だけど今日は…しょうがねーよな。
 案内係に最上階の二部屋しかない特別室に案内される。
「あの…どうして……………。」
 案内係がいなくなってからそいつは口を開いた。
「………取り合えず一週間予約しておいた。その間、好きに過ごせ。気が済みゃ結論が出せんだからよ。」
 そう言い渡して片方の部屋に入る。
「……ありがとう。」
 ドアを閉じる俺の耳にあいつの声が届いていた。


 さすがに連日の野宿は堪えていたのだろう。
 俺は久々の布団の感触にぐっすり眠り込んでいた。
「プルル。プルル。」
 突然の室内電話の呼び出し音に俺はゆっくりと覚醒する。
「……っせーな。もう少し寝かせろよ。」
 ゴロリと寝返りをうち頭から布団を被る。
「プルル。プルル。」
 電話は鳴り止まない。
「…ちっ。仕方ねーな。何だよっ! うっせーぞ。」
「あっ!」
 受話器の向こうで驚いたような声があがる。
「あの…ごめんなさい。寝て…ました?」
「……誰だ?」
 聞き覚えのねー女の声に知らず知らずの内に眉間にしわが寄る。
「あの…アンジェリークです。昨日…あなたにこのホテルに泊めて貰った………。」
『アンジェリーク……? ホテルに泊めた……?』
 頭の中で名前を反復して思い当たる。
 夕べ…電車の中で一人が寂しいからと俺の隣りに座り込んだ家出女だ。
「おめーかよ。……何か用か?」
「あの…良かったら食事を一緒にどうかな? って……。」
 言われて時計に視線を移す。
 午前十時四十分。
 確かに腹も減るし、もう起きてもいい時間だ。
「あの………。」
 俺の長い沈黙にアンジェリークが不安そうに声を出す。
「………今からシャワー浴びる。用意できたらノックすっから待ってろ。」
「はいっ!」
 受話器から聞こえた元気な声に俺はアンジェリークの笑顔を見たような気がした。


 それから俺は毎日アンジェリークと行動を共にした。
 別にどうだって良かったんだが、あいつは何処か行きたい場所があると必ず俺を誘った。
 我侭なあいつは、てめーで家出をしてきたクセに独りぼっちは寂しくて嫌らしい。
 気持ちが判らなくも無いので付き合ってやった。
 着替え一つ持ってねーあいつの着替えを買うためのショッピングもホテルのすぐ近くにある水族館も。
 三日目辺りから俺はあいつの表情の変化にどことなく気づき始めていた。


「あの……………。」
「……家に帰る気になったんだな?」
 五日目の夜。
 俺の言葉に部屋の扉の前で俯いていたアンジェリークが驚いたように顔を上げる。
「……どうして? どうしてゼフェルには何でも判っちゃうの? 私…何も言ってないのに……。」
「俺には放浪癖があるって話しただろ? だから何となくだけど判るんだよ。さんざん好き勝手やって…おめーの気が済んだんだなってのがよ。」
「あの…ゼフェル。あのね。大切なお話があるの。ゼフェルにはどうしても聞いて貰いたくて……。だから入って。部屋に入って。お願い。」
 懇願するようなアンジェリークの表情に俺は無言で部屋に入った。
 俺の部屋と同じ作りの筈なのに甘い香りが鼻をくすぐる。
 ここ数日間で室内に染みついたんだろうアンジェリークの香りが………。
「んで? 話ってのは?」
「ん……。あの…ね。ゼフェルって…あの………。」
 真っ赤になって言葉を濁すアンジェリークをベッドに腰掛けた俺は不思議そうに見つめた。
「あの…ね。女の子と……した…経験って…ある?」
「はっ?」
 恥ずかしそうに俯くアンジェリークの言葉を理解するのにたっぷり五分はかかったと思う。
「……………んなの。おめーには関係ねーだろ?」
 アンジェリークから顔を背けて答えた俺は耳まで赤くしていた。
 なんでこいつがそんな事聞いてくんのか判らなかった。
「ううん! あるの。あのね。お願いがあるの。経験あるなら…私と……して……………。」
 アンジェリークの言葉に俺は初めて会った時のようにマジマジとこいつを見てしまった。
 恥ずかしくてたまらない。
 そんな風情で立っているアンジェリークの姿に俺はからかわれているような気がして腹が立ってきた。
「アンジェリーク! てめー。ふざけて人をからかうにも程があるぞ。俺は部屋に戻るかんな。」
「ま…待ってっ!」
 立ち上がりドアへ向かう俺の腕を掴んでアンジェリークが呼び止める。
「待って。怒らないで。ふざけてないの。本気なの。お願い。聞いて。私の話。」
 涙声のアンジェリークに俺はゆっくりと振り返った。
「私…家に戻る決心したけど……。それってね。同時に遠い所に一人で行かなきゃいけない決心をした事になるの。お父さんともお母さんとも…学校の友達とも離ればなれになって……。多分…もう二度と会えなくなっちゃうの。勿論…ゼフェルとも……………。」
 俺からは言葉を区切るアンジェリークの表情は見えない。
 俯いて…必死に言葉を探してるんだろう。
「私…ゼフェルの事好きよ。出会ってから十日もたってないけど…ぶっきらぼうで優しいゼフェルが大好き。だから…だからね。ゼフェルには私の事を覚えていて欲しいの。ゼフェルが結婚して子供が出来ておじいちゃんになっても…私が此処にいたって事を。私…どんなに遠くに行ってもゼフェルの事を覚えていたいの。だから…お願い。」
『遠い所…か……………。』
 アンジェリークの言葉に俺は聖地を思い出した。
 どうやら俺の放浪癖もこいつと散々遊び回って気が済んできてるらしい。
「ゼフェル………。」
 微動だにしない俺を不安に思ったアンジェリークが顔を上げる。
 黙ったままじっと俺はアンジェリークを見つめていた。
 アンジェリークはそんな俺の目の前まで歩み寄ると俺の顔を見上げゆっくりと瞳を閉じた。
 小刻みに震える身体とホンの少し濡れた睫毛。
 恥ずかしさに染まった頬とうっすらと開いた赤い唇。
 俺はアンジェリークの震える身体を抱きしめながらその赤い唇にゆっくりと口付けていた。


 目が覚めたとき、あいつの姿はすでになかった。
 背中に残った爪痕とシーツの赤いシミがあいつが確かに存在していた事を俺に知らせていた。
 ふとサイドボードに目をやると『ありがとう。ゼフェル。さようなら。』と書かれたメモが残してあった。
 俺はそのメモを丸めてくずかごに投げ入れた。
「莫ー迦。何が『ありがとう。さようなら。』だよ。俺に何も言わせねーで行っちまいやがって……。アンジェリーク。おめーがどっかの男と結婚して子供を産んで孫に囲まれて……死んじまってもおめーの事は忘れねーよ。」
 オーシャンビューのホテルの窓からキラキラと光る海を眺めながら呟く。
 綺麗だけれど…あいつの金色の髪ほどの綺麗さを感じなくなっていた。


 それから二日くらい海をぼんやり眺めて…そして聖地へ戻っていった。
 戻った直後、ルヴァから女王試験なんてものが始まる事を知らされた。
 特に興味は無かったが、新しい女王の代になっても俺の放浪癖が出た時の外出許可については、絶対に残しておいて貰おうと考えていた。
 謁見の間で二人の女王候補と対面する。
 思わず目が点になって笑い出す所だった。
 金色の巻き毛に緑の瞳。
 あの時のようにゴテゴテした格好ではない、いかにも学校の制服ですといった服装で………。
 寂しがり屋のあいつがそこに立っていた。
 ゆっくりと前へ進むあいつが俺の目の前でキョロキョロと辺りを見回す。
 好奇心旺盛な所も間違いなくアンジェリークだった。
 ふと…俺と目があってあいつは驚いたように目を丸くして…次の瞬間、真っ赤になって固まってしまった。
 隣にいたもう一人の女王候補に注意を受けて再び歩き出すが、俺の方が気になるのかチラチラと見ていた。
 興味の無かった試験が俄然面白く思えてきた。
 聖地を模した飛空都市の執務室でメカの改造をしていたらディア様があいつを連れてやってきた。
「アンジェリーク。日の曜日とかよ。俺ら守護聖もヒマしてるから誘いに来いよな。」
「は…はいっ! 判りました。」
 自己紹介の後に思い出した事を告げると、あいつは顔を真っ赤にさせながらも元気に返事をしていった。
 そして試験開始後、最初の日の曜日にアンジェリークは俺の所にやってきた。
 それから……………。


 ガクンッ!
 電車の大きな揺れに俺は我に返った。
 俺以外、誰一人乗っていない夜行電車。
 車窓を流れる僅かな光りの波に八年も前の事を思い出していたようだった。
「俺も…進歩がねーよな。」
 守護聖交代を恙なく終え、行く当てもなく電車に乗った自分を自嘲する。
 アンジェリークと出会って…女王試験が終わってから八年が経っている。
 あいつは…アンジェリークはあんなに頼りなさそうで…それでも女王になっちまった。
 そんな八年の間、不思議な事に俺の放浪癖は全く姿を現さなかった。
 宇宙を統べる女王の恋人でいられるんだから当たり前よ…とはあいつの言葉。
 そんなモン信じて無かったが、あいつがうるさいのでそう言う事にしといてやった。
 いつまでも一緒にいられるとあいつは信じてたみたいだけど俺のサクリアは結構あっけなく衰えた。
 あいつは泣いて…泣いて泣いて………。
 俺はそんなあいつを宥め賺して聖地を出た。
 だって、しょうがねーじゃねーか。
 あいつの…アンジェリークの女王のサクリアは少しも衰えてねーんだから……………。
 四人掛けのボックス席でぼんやりと窓の外を見る俺の真横に人の気配があった。
 なにげに窓に映るそいつの姿を見て思わず立ち上がる。
「あの…ここに座っても良いですか?」
 ゴテゴテとフリルのついたワンピースを着たアンジェリークが大きな荷物を持ってその場に立っていた。
「おめー…何やってんだよ。こんなトコで………。」
 振り返って直接その姿を確かめるのが怖くてガラスに映るアンジェリークに尋ねる。
「あの……ね。ロザリアに聖地を追い出されちゃったの。これ持って出てけって。」
 と言ってアンジェリークは女王府発行のカードをガラスに映した。
「ゼフェルが出て行ってからね。ずっと涙が止まらなかったの。そしたらロザリアにね。このままじゃ聖地どころか宇宙全体が水浸しになっちゃうって言われて……。女王が平静に宇宙を統べられない時は補佐官が代理を務める事があるんだって。だから気の済むようにしろって。他の守護聖の皆さんも好きにして良いって……………。だって…ゼフェルがいなくなっちゃったら……。私…独りぼっちになっちゃうもの………。」
 緑色の瞳が寂しい寂しいとガラス越しに俺に訴える。
「……おめーは一人じゃねーだろ。ロザリアもいるし他の奴等だって………。」
「駄目なの。ロザリアもジュリアス様も…守護聖の皆がいてくれるのに……。私にはゼフェルが…誰もゼフェルの代わりになんてなれないんだもの。」
 アンジェリークの言葉に俺は深い溜息をついて席に座りなおした。
「ゼフェル……………。」
 ガラスに映るアンジェリークがじっと俺を見つめていた。
「………うっとーしいから何処でも好きなトコにさっさと座れっ!」
 俺の言葉にアンジェリークは安心したように微笑んで、嬉しそうに俺の隣りに座った。
 それからしばらくの間、俺もアンジェリークも一言も話さなかった。
「あの……。」
「……よぉ。」
 八年前と同じに二人同時に呼びかける。
「ゼフェル……。これからどうするの?」
「……………考えてねー。」
「……また…終点まで行く?」
 聞かれて考え込んだ俺にアンジェリークが笑顔でそう尋ねる。
「……だな。終点まで行って…ホテル予約して……。」
「お買い物して水族館行きましょ。イルカのジャンプ見てアシカのショーを見て……。砂浜を二人で歩くの。」
 お互いガラス越しに目が合って思わず笑っちまった。
 笑いのおさまった俺はやっとアンジェリークの顔をまともに見る事が出来た。
 アンジェリークは恥ずかしそうに頬を赤くして、ホンの少し上を向いてゆっくりと瞳を閉じた。
 俺はそんなアンジェリークの少し開いた唇に深く深く唇を重ねた。


「カタタン。カタタン。」
 単調なリズムを繰り返して暗闇の中を電車が走る。
「カタタン。カタタン。」
 そんな音がする度に俺は俺自身の放浪癖が綺麗さっぱり無くなっていく事を感じていた。
 ガキの頃からずっと捜していた自分の居場所。
『私のいる場所があなたのいる場所なのよ。』
 ……と腕の中の温もりが俺に語り続けていた。


もどる