迷子の辿り着いた場所


「ゼフェル様。こんにちは。………ゼフェル様?」
 女王候補のアンジェリークが鋼の守護聖ゼフェルの執務室の扉を叩く。
 しかし中からは何の反応も返ってこない。
「……お留守なのかしら? 変ね。今日はお会いする約束をしてるのに………。あの…ゼフェル様? 失礼しまーす。」
 そっと扉を開けて部屋の中を覗き込む。
 いつもなら執務机の上に腰掛け自分を待っているゼフェルの姿がやはりない。
「……どうしちゃったのかしら? お留守なら仕方ないわ。今日はもう帰ろっと。……………ゼフェル様の莫迦。」
 グルリと室内を見渡してから無人の室内に向かって拗ねたように呟く。
 日の曜日。
 澄み渡る青空とは対照的な浮かない顔をしてアンジェリークは聖殿を後にした。


「今日は一緒にお買い物に行こうと思ってたのにな。」
 飛空都市に作られた街の中を一人、歩きながらアンジェリークが呟く。
「ゼフェル様のことだからきっとメカの改造か何かしてて私との約束忘れてるんだわ。もう………。ゼフェル様らしいけど…でも………。」
 言いながら足下の小石をコツンと蹴る。
 蹴った小石の転がる先を目で追っていたアンジェリークが見覚えのある黒いブーツに視線をあげた。
「………ゼフェル様っ!!」
 視線をあげたアンジェリークは目の前で小さな女の子と並んで歩くゼフェルの姿に思わず叫んでしまった。
「ゼフェル様。こんな所でどうしたんですか? 今日は私と約束して……………。」
「おめー。誰だ?」
「えっ?」
 初めてあったときと同じ様な冷たい瞳で尋ねるゼフェルにアンジェリークが動きを止める。
「あ…あの……。ゼフェル様?」
「気安く人の名前を呼ぶんじゃねーよ。」
 戸惑うアンジェリークにゼフェルはそっけない。
「………お兄ちゃん。アンジェもう疲れちゃった。」
「ん? 疲れたのか? しょうがねーな。ほら。」
 足下でゼフェルに隠れるようにしてアンジェリークを見上げていた女の子がゼフェルのマントを引っ張る。
 そんな女の子を抱き上げてゼフェルは歩き出した。
「ま…待って! ゼフェル様っ!」
「……誰だか知らねーけど気安くすんなっつったろ?」
「お兄ちゃん?」
「……何でもねーよ。帰ろうな。」
「うんっ。」
 アンジェリークに向けた冷たい表情からは信じられないような優しい笑顔をゼフェルが女の子に向ける。
 女の子はそんなゼフェルの首にギュッとしがみついて笑顔を作った。
 呆然と立ち尽くしているアンジェリークにチラリと視線を向けた女の子の緑の瞳が妙に印象的だった。


「昼間の…あれって絶対! ゼフェル様よね。だけど…だったら何で………?」
 特別寮の自室に戻ったアンジェリークが何度目かの寝返りを打ちながらベッドの中で呟く。
 時刻は既に真夜中を指していたが、アンジェリークは昼間のゼフェルの態度が気になって全く眠れずにいた。
「……………あれ?」
 コツンと窓に何かがあたる音を聞いたアンジェリークが身体を起こす。
「な…何?」
 再びコツンと音を立てる窓に近づきカーテンを開ける。
「ゼ…ゼフェル様っ?」
 驚きで大声を上げるアンジェリークに太い木の枝に乗ったゼフェルが『静かにしろ』と口元に指をあてる。
「ど…どうしたんですか? ゼフェル様。あの……。昼間お会いしたのって……………。」
「アンジェリーク。悪りぃけど頼まれてくれねーか?」
 窓を開けて小声で尋ねるアンジェリークの言葉を制するようにゼフェルがやはり小声で囁く。
「はい? 何ですか?」
「昼間…チビと一緒だったろ? しばらくの間、あのチビに付き合ってやんなきゃなんねーんだ。なるべく早めに戻るから……。おめーよ。昼間、街で俺と会ったこと他の奴等に話さねーでくれよ。」
「えっ? でも……………。」
「良いか? 頼んだぞ。………心配すんな。街外れの廃屋にいるから。すぐに戻る。昼間は悪りかったな。」
 不安そうに顔を曇らせるアンジェリークにゼフェルが苦笑する。
「じゃあな。アンジェリーク。」
 そう言ってゼフェルは木の枝から飛び降りた。
「ゼフェル様っ!」
 慌てて窓から身を乗り出すアンジェリークを一度だけ見上げてゼフェルは闇の中に消えていった。
「………ゼフェル様。」
 アンジェリークは不安な気持ちを抱いたままゼフェルの消えた方向をいつまでも見つめていた。


「お兄ちゃんっ!」
「お…おめー。起きてたのか?」
 街外れの廃屋に戻ったゼフェルに女の子が半べそをかいてしがみつく。
「何処行ってたの?」
「悪い悪い。ちょっと…な。」
「昼間のお姉ちゃんの所?」
「………おめー。」
 女の子の呟きに金色の巻き毛を撫でていたゼフェルの手がピクリと止まる。
「だって…判るもん。お兄ちゃん…あのお姉ちゃんのこと好きなんでしょ? だから…あのお姉ちゃんの所に行ってたんでしょ?」
「………ああ。だけど帰って来ただろ? おめーが気が済むまで一緒にいてやるってちゃんと約束したからな。」
「もう…一人ぼっちにしない?」
「ああ。」
「お兄ちゃん。アンジェのこと好き?」
「ん? ……ああ。」
 自分にしがみついたまま眠たそうに目を擦る女の子にゼフェルが苦笑する。
「………アンジェ。あのお姉ちゃん嫌い。もうあのお姉ちゃんの所に行かないで。」
「………仕方ねー奴だな。おめーは。判ったよ。おめーがあいつに何もしなければ俺は何処にも行かねーよ。」
「ホントに?」
「ああ。」
 嬉しそうに輝く大きな緑の瞳が苦笑するゼフェルの姿を映していた。


 それから三日経っても五日過ぎてもゼフェルは帰ってこなかった。
 さすがに長いゼフェルの不在を不審に思った周囲が騒ぎ始め、ゼフェルの捜索が秘密裏に行われた。
 しかしゼフェルを見つけだすことは出来なかった。
 守護聖の長たる光の守護聖ジュリアスやゼフェルの後見人の大地の守護聖ルヴァ等にアンジェリークやもう一人の女王候補ロザリアはゼフェルの動向について尋ねられた。
 特にアンジェリークはゼフェルと一番親しくしていた事もあって何度も何度も繰り返し尋ねられた。
 だけどアンジェリークはゼフェルに言われた通り、誰に尋ねられても決してゼフェルのことを話さなかった。
 不安に押しつぶされそうになりながら………。


「アンジェリーク。邪魔をするぞ。」
「……クラヴィス様?」
 部屋にこもりがちになったアンジェリークの元に闇の守護聖クラヴィスがやってきた。
「あの……。何か……………。」
「行方不明の鋼の守護聖のことだ。」
「……………。」
 クラヴィスの言葉にアンジェリークは身体を強ばらせた。
「私は何も………。」
「判っている。お前は何も知るまい。だが…このままでは鋼の守護聖は永遠に戻っては来ない。」
「……どうしてですか? クラヴィス様。」
「………これを見ると良い。」
 そう言ってクラヴィスは水晶球を差し出した。
 水晶球を覗いたアンジェリークは小さな女の子と一緒にいるゼフェルの顔色が酷く悪い事に気がついた。
「ゼフェル様…顔色悪い………。」
「無理もない。長いこと精神体と共にいるのだからな。」
「えっ?」
 クラヴィスの言葉にアンジェリークは驚いたように顔を上げた。
「精神体って………。」
「判らぬか? この幼子は実体ではない。死してその場にとどまっている魂か身体を離れた迷い子かは判らぬがこの幼子に時はない。だがゼフェルは違う。我々守護聖と言えども緩やかに時は流れる。守護聖であるからこそあの幼子と今まで共にいれたがこれ以上共にいればゼフェルの命が危うかろう。」
「……ク…クラヴィス様。私………。」
「居場所は知っていよう。……好きにすると良い。」
「あ…ごめんなさい。ありがとうございます。クラヴィス様。失礼します。」
「……………。」
 街に向かって走り出したアンジェリークの後ろ姿をクラヴィスは優しい笑顔で見送っていた。


「は…はぁ……。街外れの廃屋って…多分ここだわ。」
 鬱蒼と茂った木立の中にポツンと建っている一軒の家の前まで来たアンジェリークが肩で息をしながら意を決したように中へと入っていった。
「……ゼフェル様。」
 怖々呼びかけるが家の中は静まり返っている。
「ゼフェル様! どこにいらっしゃるんですか?」
 静寂に耐えきれずアンジェリークが大声で叫んだ。
「……………アンジェリーク?」
 そんな叫び声に二階の踊り場から顔を出したゼフェルが驚いたように降りてきた。
「ゼフェル様っ!」
「おめー。どうして……。」
「ゼフェル様。一緒に帰りましょう。このままじゃゼフェル様が………。」
「駄目ーっ!」
「きゃっ!」
 女の子の叫び声と共にゼフェルの身体に伸ばしかけたアンジェリークの指先に火花が走る。
「お兄ちゃんはアンジェのなの。アンジェとずっと一緒にいるの。………お姉ちゃんなんか嫌い! あっち行って!」
「えっ? きゃあっ!」
「アンジェリーク!」
 階段を数段上がっていたアンジェリークが突き飛ばされたように下に落ちる。
 ゼフェルは慌ててアンジェリークに駆け寄った。
「アンジェリークっ! 大丈夫か?」
「はい。二段しか上ってませんから。でも…今の……。」
「あのチビだ。……止めるんだ! おいっ!」
「お姉ちゃんなんかあっち行っちゃえっ!」
「き…きゃあっ!」
 女の子の言葉と共にアンジェリークの身体が浮き上がり後方へ飛ばされる。
「………アンジェリーク!」
 咄嗟にゼフェルはアンジェリークの身体を守るように抱きしめた。
 ガッシャーン!
 激しい音と共にゼフェルの身体が窓ガラスに衝突する。
「痛っ……。」
「お兄ちゃんっ!?」
 割れた窓ガラスの破片で傷を負ったゼフェルの姿に女の子が驚いて駆け寄った。
「お兄ちゃん! ……痛い? 痛いの? 大丈夫? だって…お兄ちゃんが………。」
「大丈夫だ。これ位なんともねーよ。……怪我は無ぇな? アンジェリーク。」
「は…はい。ゼフェル様。私は。でも……………。」
「気にすんな。………アンジェ。良いか? 俺はおめーに言ったよな。こいつに何もしなきゃ俺は気が済むまでおめーの側にいてやるって。」
「……お兄ちゃん。お姉ちゃんに意地悪したからもうアンジェの側にいてくれないの? パパやママみたいに。」
『パパやママ………?』
 涙を浮かべ始めた女の子の言葉にアンジェリークは不思議な既視感を覚えた。
「パパもママもお仕事忙しくてアンジェの側にいてくれないんだよ。お兄ちゃんが初めてだったのに………。お兄ちゃんがいなくなっちゃったらアンジェの側にいてくれる人誰もいなくなっちゃうのに………。」
「そんな事無いわよ。」
 泣きじゃくる女の子を宥めるようにアンジェリークは優しく呟いた。
「……あのね。私も小さい頃、独りぼっちだったの。あなたと同じで両親とも働いてたから。でもね。ずっと独りぼっちじゃないのよ。大きくなればお友達も出来るし…今はね。このゼフェル様が側にいてくれるの。だからお願い。ゼフェル様を私に返して。」
 優しく微笑みながら呟くアンジェリークに女の子はゼフェルの方へ向き直った。
「………お兄ちゃん。アンジェ…帰った方が良いの?」
「ああ。おめーの側にずっといてやれるのは今ここにいる俺じゃねーんだ。……ごめんな。おめーの一番になれなくてよ。でもな。これだけは保証してやる。おめーがこのお姉ちゃん位大きくなったら…そん時には絶対おめーの側にいてくれる奴が見つかる。おめーが一番大切だって奴が必ずおめーの側にいる。だから安心して家に帰れ。」
「……………うん。ごめんなさい。お姉ちゃん。意地悪しちゃって。」
「いいのよ。そんなの。気を付けて帰るのよ。」
「うん。………お兄ちゃん。」
「ん? なんだ?」
 うっすらと霞み始めた女の子がゼフェルにしがみつく。
「あのね。……アンジェが大きくなったときに側にいてくれる人。お兄ちゃんみたいな人だったら良いな。」
「………なに言ってやがる。」
 女の子の言葉にゼフェルは照れたような笑顔を作りしがみつく女の子を抱きしめた。
「ホントにホントはお兄ちゃんが良いんだけどな……。」
 聞こえるか聞こえないか判らないほど小さな声で呟いて女の子の姿がゼフェルの腕の中から完全に消えた。
「………莫迦野郎。」
 消えた女の子に向けてゼフェルはそっと呟いた。
「………ゼフェル様。」
「……帰るか。アンジェリーク。」
 そっと名前を呼ぶアンジェリークにゼフェルが笑顔を見せる。
「は……い……………。」
「アンジェリークっ!」
 目の前のゼフェルの姿がグレーに霞んだ。
 傾きかけた身体を慌てて支え、何事か叫んでいるゼフェルの声がアンジェリークの耳には届かない。
 次の瞬間、目の前が真っ暗になってアンジェリークは気を失ってしまった。


「う……ん。」
「あー。アンジェリーク。気が付きましたか?」
 短いうめき声を上げたアンジェリークをルヴァが心配そうに覗き込む。
「ルヴァ…様? ………私…どうして?」
 見たことのない室内のベッドの中にいたアンジェリークがゆっくりと身体を起こした。
「行方不明だったゼフェルが気を失っていたあなたを抱いて戻ってきたんですよ。」
「えっ? ゼフェル様が?」
「ええ。あなたもゼフェルも真っ青な顔で……。ゼフェルは怪我もしていたと言うのにあなたをここに寝かせるまで決して私達にあなたを渡そうとしないし………。どうにかここまで運んであなたを寝かせたと思ったら倒れてしまうし………。本当に驚きましたよ。」
「……ルヴァ様っ! ゼフェル様…倒れたって………。」
 ルヴァの言葉にアンジェリークは驚いてベッドから飛び降りようとしてバランスを崩しその場にしゃがみ込んだ。
「だ…大丈夫ですか? アンジェリーク。そんなに心配しないでもゼフェルなら隣りの部屋にいますから。あ…あの? アンジェリーク?」
 ルヴァの言葉にアンジェリークはおぼつかない足どりで隣の部屋に向かおうとした。
「駄目ですよ。アンジェリーク。あなたももう少し休んだ方が良いんですからね。身体がまだ思うように動かないでしょう。ゼフェルなら心配いりませんから。」
「だってルヴァ様。……お願いですルヴァ様。ゼフェル様の側にいさせてください。でないと私……………。」
 引き留めるルヴァをアンジェリークは訴えるような表情で見つめた。
「………仕方ありませんねぇ。ゼフェルも目が覚めてから大騒ぎだったんですよ。あなたはどうしてる…って。」
 溜息を一つついてルヴァはアンジェリークを支えるようにして歩き出した。


「ゼフェル! 聞いておるのか?」
「聞いてるよ。さっきっからうるせーな。」
「ゼフェルっ! ジュリアス様に何て事を言うんだ。皆がお前のことをどれだけ心配したと思ってるんだ?」
「そうだよ。ゼフェル。そんな怪我までして……。一体いままで何処で何してたのさ。」
 隣の部屋にやってきたアンジェリークの耳に飛び込んだのはジュリアスを始めとする守護聖達のゼフェルに詰め寄る声だった。
「大体そなたは日頃から守護聖の自覚にかけて……。」
「うっせーって言ってっだろ。二言目には自覚だ何だって。帰ってきたんだから良いだろーが。」
「そなたのその様な考え方が問題なのだ。守護聖たるもの常日頃から……………。」
「………う。」
「……アンジェリーク?」
「うるさーい!」
 部屋の中のあまりの喧噪に俯き肩を震わせたアンジェリークを不審に思ったルヴァが突然の叫びに硬直する。
「ア…アンジェリーク?」
 室内にいた全ての人間が思いも寄らない人物の叫び声に目を丸くした。
「………ジュリアス様っ! ゼフェル様はまだ身体の調子が悪いんですよ。お説教はゼフェル様が元気になってからにして下さい! まだこんなに顔色が悪いのに……。ゼフェル様を休ませてあげて。……もう出ていって。皆…皆出ていって!」
「ア…アンジェリーク。そなた………。」
 バタンッ!
 まだ何か言おうとしているジュリアスを押し出すようにして激しい音を立てて扉を閉める。
「……………ぶっ。」
「ゼフェル様っ!」
 閉じた扉を肩で息をしながら見つめていたアンジェリークは後方からゼフェルの吹き出す声が聞こえて急いで振り返った。
「わ…悪りぃ。だ…だってよ。くっくく……。お…おめー。ジュリアスを怒鳴った上に閉め出すなんて……。俺でもやったことねーってのに……………。」
「だからってそんなに笑わなくたって……。きゃっ!」
 枕に突っ伏して笑いを堪えているゼフェルにアンジェリークが真っ赤になって近づこうとしてバランスを崩しゼフェルの上に倒れ込む。
「……………ゼフェル様。」
「ん?」
 ゼフェルに抱きついた形でアンジェリークがそっと呟く。
「怪我までしてるのに…身体の具合も悪いのに……。運んで貰っちゃってごめんなさい。」
「……んなコト気にすんな。ホントは寮まで運ぶつもりだったんだけどよ。さすがにそこまで頑張れなかった。俺の家で悪りぃな。油臭せぇだろ。」
 ゼフェルの言葉にアンジェリークがフルフルと首を振る。
「早く元気にならなきゃ。元気になってゼフェル様のお部屋。お掃除させて下さいね。」
「良いよ。んなの。どーせ飛空都市に作られてんのは仮の家なんだから。」
「だって! いくら何でもこのお部屋…埃が凄すぎます。」
 部屋に入ったときから気になっていたのだ。
 粉っぽい空気と天井に張ったクモの巣と部屋の隅の綿埃。
「………莫ー迦。ここは俺の部屋じゃねーよ。ここは普段は全然使わねー客間だって。俺の部屋は隣………。」
 言いかけてゼフェルが慌てて口をつぐむ。
「隣りの…部屋?」
 ゼフェルの言葉にアンジェリークが呆然とする。
 先程まで寝ていたベッドに微かに臭った機械油。
「ど…どうして自分のベッドで寝ないんですか!」
 自分が誰のベッドで寝ていたのか理解したアンジェリークが真っ赤になってゼフェルに尋ねる。
「……埃だらけの部屋におめーを寝させられるかよ。」
 顔を背けてゼフェルはそれだけ言った。
 耳まで赤く染めながら………。
「………ゼフェル様。もう一つ聞いても良いですか? どうしてあの娘の側にいてあげるって約束したんですか?」
「……………さぁな。」
「ゼフェル様っ!」
『言えるかよ。あのチビがおめー本人だから。なんてよ。…っかし…当の本人はすっかり忘れてんだな。………もう独りじゃねーから寂しくねーだろ? アンジェ。』
「ゼフェル様。教えて下さいってば。きゃっ! ……ん。」
 頭から布団を被ってしまったゼフェルに抗議するかのように身体を激しく揺すっていたアンジェリークが突然抱きしめられて大人しくなる。
 ゼフェルはそんなアンジェリークにそっと口付けた。


もどる