レター 〜伝えられない言葉〜


「はぁーい。ルヴァ。女王陛下がお呼びよぉ〜ん。」
「おやぁ。オリヴィエ。陛下が? あー。私だけですか?」
「ううん。守護聖全員呼んでる見たいよ。私は通り道だったからあんたを誘いに来ただけー。」
 大地の守護聖ルヴァのおっとりとした問いかけに、きらびやかな衣装を身に纏った夢の守護聖オリヴィエは笑顔で首を振った。
「あー。そうですか。じゃあ。行きましょうかねぇ。」
 ルヴァは読みかけの分厚い本を閉じると立ち上がり、女王の元へと歩き出した。
「……所でさ。ルヴァ。ゼフェルの様子…どうなの?」
「相変わらずですよ。守護聖としてやるべき事はやっていますけど…それ以外の時は好きだった機械いじりもせずにボーっとしています。」
「そう。………無理もないか。あの娘と一番仲良くしてたのはゼフェルだったものね。……正直な所さ。私は二人がくっつくかと思ってたんだけどね。」
「私もですよ。ゼフェルもアンジェリークも互いに互いの事を想っていたみたいでしたから……。でも彼女は帰ってしまいましたからねぇ。」
「そうだったわね。」
 酷く悲しそうな顔をするルヴァと同じ様な顔をしたオリヴィエは、女王試験終了と共に外界へ帰って行った金色の巻き毛の少女に思いを馳せた。
「なぁーんで帰っちゃったのかしらねぇ。あの娘。ロザ…陛下とも仲良かったんでしょ? だったらディアみたいに補佐官にでもなれば良かったのにね。」
「……仕方ねーだろ。本人が補佐官なんかになりたくないってんだからよ。」
「……ゼフェル。」
「あら。嫌だ。いたの?」
 背後から聞こえた鋼の守護聖ゼフェルの声に、先を歩いていたオリヴィエとルヴァが驚いたように振り返った。
「あー。ゼフェル? 補佐官に? なりたくない? ……アンジェリークはそう言っていたんですか?」
「どうしてよ。補佐官になれば私達守護聖と同じ時を生きられるのよ。ずっと一緒にいられるのに……。」
「俺が知るかよ。とにかくっ! あいつは補佐官にはなりたくないって言って帰っちまったんだよ。」
「あっ! ちょっと! ゼフェル!」
 走り出したゼフェルの背をルヴァとオリヴィエは呆然と見つめていた。
「どういう事なの?」
「さぁ……?」
 ゼフェルの姿が完全に見えなくなってからようやっと我に返ったオリヴィエとルヴァは互いに互いの顔を見合わせて首を捻っていた。


「お忙しい中、お呼びだてして申し訳ありませんわ。」
「いいえ。陛下。とんでもございません。それよりも何か大事でも起こったのですか? 我ら守護聖一同を呼び出すなどとは………。」
 光の守護聖ジュリアスが女王ロザリアに問いかけた。
「……私の元に家に戻ったアンジェリークからの手紙が届きましたの。皆さん宛に九通の手紙も入っていました。ですからそれを渡そうと思ってお呼びしたのです。」
「アンジェリークから………。」
 ほんの少し間をおいて伝えられた女王の言葉に守護聖の間からどよめきが起こった。
「ええ。きっと皆さんそれぞれに伝えたい事があったのでしょうね。どうか受け取って下さい。」
 女王は笑顔でそう告げると守護聖一人一人にアンジェリークからの手紙を手渡した。
「私の用件は以上ですわ。どうぞ皆さん。それぞれの館に戻りアンジェリークからの手紙をゆっくりとお読みになって下さい。」
「ありがとうございます。陛下。」
 ジュリアスを始めとして守護聖達は奥へと戻る女王に礼を取りそれぞれの館に急ぎ足で戻っていった。


「あの莫迦。こんなモンよこしやがって……。何でぇ。こんなモンよこす位ならここに残れば良かったんだ。」
 館に戻ったゼフェルは女王から受け取った手紙を机の上に放り投げるとそのままベッドに倒れ込むように寝ころびアンジェリークと最後に会った日の事を思い出して机の上の手紙を睨み付けた。


「アンジェリーク!」
「……ゼフェル様。」
「お前…帰るって本当なのか?」
 特別寮の部屋の中で荷物の整理をしていたアンジェリークの元にゼフェルが勢い良く飛び込んできた。
「……どなたから聞かれたんですか?」
「ランディとマルセルが話してるのを聞いたんだ。そんな事より! 本当に帰る気なのか?」
「……………はい。」
 怖い顔で自分を睨むゼフェルから顔を背けてアンジェリークは小さく頷いた。
「……何でだよ! 帰らなくても良いじゃねーか! おめー…ロザリアとも仲良くやってたんだろ? だったら補佐官になれよ。ロザリアだってそう言ってたんだろ?」
「……出来ませんっ!」
「ア…アンジェリーク?」
 突然叫んだアンジェリークにゼフェルは驚いたように彼女を見つめた。
「私には出来ません! 補佐官になんかなれません。ロザリアは女王としての教育をしっかりと受けてきた人です。私みたいな何も知らない人間が補佐しなくても一人で立派に女王としてやっていけます。でも……。でも私には補佐官なんて出来ません。」
「な…なに言ってんだよ。大丈夫だって。おめーにだったら出来るって。俺が保証してやるよ。俺だけじゃねーぞ。ルヴァだって。オリヴィエだって。オスカーやマルセルや……。守護聖全員が保証する! おめーは補佐官としてちゃんとやっていける。だから帰るなんて言うなよ。」
 大粒の涙を零しながら話すアンジェリークにゼフェルは必死に説得を続けた。
「いいえ。……守護聖様方がそう言って下さるのは凄く嬉しいんです。でも……。私には出来ません。」
「……何でだよ! 理由を言えよ!」
 どんなに宥めて聖地へ残るように説得しても首を振り続けるアンジェリークにゼフェルが苛立たしげに叫んだ。
「だって………。私にはディア様のように聖地で暮らす事なんて出来ません……。出来ないんです。」
「……そうかよ。分かったよ。……勝手にしろっ!」
 アンジェリークの言葉にゼフェルはそんな捨てゼリフを残すと来た時と同様に慌ただしく部屋を出ていった。


「……莫迦野郎。誰もディア様みてーに立派にやれなんて言ってねーじゃねーかよ。あいつはあいつらしくやりゃあそれで良いのに………。」
 開け放した窓から気持ちよい風が部屋の中に入り込む。
 机の上のアンジェリークからの手紙がその風に吹かれて床の上に落ちた。
「……………。」
 真っ白な封筒が風に舞う様を目で追っていたゼフェルはおもむろにベッドから起きあがると床に落ちた封筒を拾い上げ封を開けた。
『ゼフェル様。お元気ですか? 私は元気です。』
「……………?」
 手紙に目を通したゼフェルは納得のいかない顔つきで封筒の中を調べた。
「………これだけかよ? あの野郎……。ふざけんのも大概にしやがれ! 莫迦にしやがって………。」
 怒りにまかせて手紙を丸めようとしたゼフェルは思いとどまり、読み終えた短い手紙に何度も何度も目を通すと大切に机の引き出しの中にしまい込んだ。


「ゼっフェル〜。陛下の所にアンジェリークからの手紙がまた来てたって。はい。これゼフェルの分。」
「……おお。サンキュー。」
「ねぇ。ゼフェル。アンジェリークの手紙。ゼフェルの分はいつも何が書いてあるの? 僕のにはね。今こんな花が咲いてます。って季節の植物の事がいっぱい書いてあるんだよ。ゼフェルのは?」
「……さぁな。」
「……………。ゼフェルのケチ。教えてくれたっていいのに。良いよ。僕、部屋に戻るから。じゃあね。」
 緑の守護聖マルセルは期待に満ちた眼差しで次の言葉を待っていたが、ゼフェルが黙ったままなので頬を膨らませて抗議をすると諦めたように帰って行った。
「………教える事なんてねーよ。どうせいつも同じなんだからよ。」
 既に何通目になるのか判らないアンジェリークからの手紙の封を切ったゼフェルは小さく呟くと短く書かれた文字を目で追った。
『ゼフェル様。お元気ですか? 私は元気です。』
「……ほらな。あの莫迦。俺宛の手紙にはこれしか書いてねーんだもんな。…ったく。あんまり短いんでいい加減やんなるよな。そんなに書く事がねーんなら出すなっての。……………ん?」
 ブツブツと文句を言いながらも短い文を何度も何度も読んでいたゼフェルが書かれている文字の一部が僅かに滲んでいる事に気がついた。
「滲んで……………!」
 ゼフェルは大急ぎで引き出しを抜き取ると机の上に今まで来たアンジェリークからの手紙の山を広げた。
「……これも! こいつも! ………こいつもだ!」
 改めて一枚一枚丁寧に確認していくと今まで見落としていたある痕跡がどの手紙にも残っていた。
「あの…莫迦。何が元気だよ。今まで気が付かなかった俺も相当間抜けだけどよ。……っくしょー。」
 ゼフェルは手紙の山をそのままにルヴァの館へ一目散に走り出した。
「ルヴァ! ちょっと来てくれ!」
「は…はい?」
 アンジェリークからの手紙を読んでいたルヴァは突然入ってきたゼフェルを驚いたように見つめた。
「ちょっと俺と一緒に来てくれよ。」
「あっ。あのー。ゼフェル? そんなに慌ててどこに行こうと言うんですか?」
「女王の所だよ!」
「はっ……?」
 ゼフェルの言葉に不思議そうな顔をしたルヴァは背中を押されながら女王の元へと無理矢理連れて行かされた。
「……まぁ。ルヴァ。何かご用ですの?」
「はぁ。私では無いんですけど……………。」
「良いから! ルヴァ。ここで待ってろよ。良いなっ!」
 ルヴァの後ろから叫んだゼフェルはルヴァを女王の元に残して走り去った。
「何なんですの?」
「さぁ……?」
 ゼフェルの後ろ姿をルヴァと女王は唖然と見送った。


「ゼフェル! 何なのだ?」
 ややしばらくしてゼフェルはジュリアスをやはり先程のルヴァと同様に無理矢理女王の元へ連れてきた。
「ジュリアス?」
「……ルヴァ? ゼフェル。一体何事なのだ?」
「だーっ。もう一人連れてきたら話すから待ってろ!」
「……もう一人とは私の事か?」
 いつの間に来ていたのか闇の守護聖クラヴィスがゼフェルの背後から声をかけた。
「クラヴィス……。ああ。そうだよ。丁度いいや。」
 年長守護聖三人を女王の前に集めたゼフェルは肩で息をしながら真剣な眼差しで女王を見つめた。
「こいつら三人の前で女王の許しが貰いたい。」
「私の……? どんな事ですか?」
「聖地の外に出る許可が欲しい。」
「な……! 莫迦なことを言うのでは無い! ゼフェル。そのような事が許される訳ないであろう。」
 ゼフェルの言葉にジュリアスが烈火の如く怒った。
「ずっとじゃねー。ほんの二・三日で良いんだ。」
「それでも………。」
「ジュリアス。」
「……はっ。」
 怒るジュリアスを女王が制した。
「理由によっては差し上げない事もありません。ゼフェル。外へ出て何をしようと言うのですか?」
「……あいつを迎えに行く。」
「……………。あいつとはアンジェリークの事ですか?」
「ああ。」
「……ゼフェル。彼女は補佐官になるのを断り家に戻りました。そんな彼女をどうして迎えに……?」
「あいつは絶対! ここに残りたかったんだ。俺に来た手紙でそれが分かった。補佐官になりたくないなんてのは…ありゃあ多分嘘だ。だから………。許可をくれ。」
「……良いでしょう。」
「陛下っ!?」
「二日だけ許可を差し上げます。……ゼフェル。私は今でもアンジェリークに聖地で暮らしてほしいと思っています。補佐官と言うよりむしろ気軽に話せる友人として……。その事。アンジェリークに伝えて下さい。」
「……判った。」
 短く返事をしてゼフェルは聖地の外へ向かっていった。


「私どもの家に何かご用ですか?」
「えっ!?」
 教えられたアンジェリークの家まで何とか辿り着いたものの、どう切り出して良いのか判らず家の前をウロウロしていたゼフェルは背後から聞こえた男性の声に驚いたように振り返った。
「鋼の守護聖ゼフェル様…でいらっしゃいますよね。宜しければ中にお入り下さい。」
「あっ…その……。何で………?」
「娘から試験の事や守護聖様方の話は聞いておりました。どうぞ。お入り下さい。」
 人当たりの良さそうな穏やかな紳士は笑顔を見せるとゼフェルを家の中へと招き入れた。
「まぁ。あなた。お早いお帰りですのね。」
「元気のない娘を元気づけようと思ってね。私より効きそうなお客様もお見えだよ。」
「……………まぁ! 鋼の守護聖ゼフェル様? まぁまぁ。ようこそいらっしゃいました。あいにくと娘は出掛けておりますが中でお待ち下さいませ。」
 夫の帰宅を出迎えたアンジェリークに似た感じの婦人は後ろにいたゼフェルの姿に目を丸くして笑顔でゼフェルを迎え入れた。
「出掛けてるって……? どこに行ったんだい? アンジェリークは……。」
「便箋と封筒を買いに行くと言って出掛けましたよ。毎日のように聖地にいらっしゃる皆様に手紙を出していますからね。……………あの。ゼフェル様? 突然で不躾なのですがお尋ねしたい事がありますの。宜しいでしょうか?」
「へっ……? あっ。ああ。別に構わねーけど……。」
 促されるままにリビングのソファに腰掛け、出された飲み物に口を付けようとしたゼフェルが慌てて答えた。
「娘の事をどう思ってらっしゃいますか?」
「なっ……………。」
 婦人のあまりにもストレートな問いかけにゼフェルは真っ赤になって言葉を失った。
「これは母としての感なのですが……。家に戻った娘の様子に聖地でどなたかに恋をしたように思っておりました。先日掃除の最中に書き損じの娘の手紙を見まして……。お相手は多分ゼフェル様なのだろうと……。ですからお答え頂けませんか? こうしてゼフェル様が聖地の禁を犯していらっしゃった事を考えますとゼフェル様ご自身も娘の事を少なからず想って下さっているのではないのですか?」
「……そうだね。ゼフェル様。どうかお聞かせ下さい。娘…アンジェリークをどう思っていらっしゃいますか?」
 真剣な表情で自分を見つめる夫妻の姿にゼフェルはきつく拳を握った。
「……あ…あんた達夫婦には悪りぃと思う。だけど俺は…俺はあいつを聖地に連れて帰りたい。あいつのいない世界なんて俺にはこれ以上耐えられない。俺は…俺はあいつが好きだ。だから………。あいつと生きたい。」
「……………。」
「………ゼフェル様。」
 黙ってゼフェルの言葉を聞いていた夫妻が顔を見合わせて笑顔を見せた。
「娘の事。どうか宜しくお願いいたします。」
「おっちょこちょいな所がありますからご迷惑をおかけするかも知れませんけどお願い致しますね。」
「へっ? あの………。」
 夫妻の言葉に拍子抜けしたようにゼフェルはポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「娘の幸せが私達夫婦の幸せです。たとえどんなに遠く離れてもその事だけは変わりません。」
「ゼフェル様の娘への真っ直ぐな想い……。私達にも伝わりましたわ。」
「……………あ…ありがとう。」
 笑顔を見せる夫妻にゼフェルは深く頭を下げた。


「ただいま。」
「お帰り。アンジェリーク。」
「お父さん? ……今日は早いのね。」
「そうだろ? 元気のない娘を喜ばせようと思ってね。」
 家に帰ってきたアンジェリークはソファに座る父の姿に目を丸くした。
「またそんな事言って……。元気だっていつも言ってるじゃない。………誰かお客様が来てたの?」
「ん? ああ。まぁね。座るかい?」
「ううん。聖地にいらっしゃる皆様に手紙を書くから部屋に行くわ。」
 アンジェリークはそう言うと二階に上がる階段を昇っていった。
「……ふぅっ。駄目だなぁ。私って。いつまでもお父さん達に心配かけて……。聖地の皆様に手紙を書かなきゃ。」
 机に向かったアンジェリークはあっと言う間に九人分の手紙を書き上げた。
「後は……。ゼフェル様の分だわ。えっと……。ゼフェル様。お元気ですか? 私は元……………。」
 書きかけの文字の上にポツリと一粒の涙が落ちた。
「……あっ! 嫌だ。書き直さなきゃ。……ゼフェル…様。お元気…です…か? 私は……………。」
 書き直しの二枚目の便箋の上にもポタポタと涙の粒が降っていた。
「………駄目。やっぱり。これ以上書けない。何やってんだろう…私。ちっとも元気じゃないのに……。辛くって辛くって……。ゼフェル様に会いたい。ゼフェル様に会えないのが死ぬ程辛いのに……………。」
「………だったら素直にそう書きやがれ!」
「えっ!」
 背後から聞こえた懐かしい声にアンジェリークは驚いて振り返った。
「………あ。嫌だ……。私…夢を見てるの? だって……。そんな事……。あぁ……。きっと頭がどうかしちゃったんだわ。こんな事がある訳……………。」
「おい。アンジェリーク。おめー。正気か?」
「嘘。だって……。夢なの? ……でも。お願い。夢なら覚めないで………。」
「しっかりしろって! アンジェリーク!」
 信じられないと言った表情で自分を見つめたままブツブツと呟き続けるアンジェリークの両頬をゼフェルは両手で軽く叩いた。
「ゼ…フェル……様?」
「正気に戻ったか? アンジェリーク。……おいっ!」
 頬を挟んでいたゼフェルの手に自らの手を重ね合わせ、大粒の涙を零すアンジェリークの姿にゼフェルは大いに慌てた。
「ど…して? ゼフェル様。何…で……………。」
「……おめーを迎えに来た。」
「えっ?」
「女王からの伝言だ。補佐官としてでなく気軽に話せる友人として聖地に来る気はねーか? とよ。」
「……………。」
「……そうか。」
 首を振るアンジェリークにゼフェルが溜息をついた。
「……この大嘘つき。何が私は元気です。だよ。俺宛のどの手紙にも涙の痕があったじゃねーか。会いたかったんだろ? さっきそう言ってたじゃねーか。それとも……。あれも嘘なのか?」
「そんな事ありません。ゼフェル様にお会いしたかった。でも…でも私………。」
「……何でそんなに補佐官になりたくねーんだ?」
 泣き続けるアンジェリークにゼフェルは優しく尋ねた。
「だって……。私…ゼフェル様の事が好きです。大好きです。だけど……。補佐官になったらディア様みたいに守護聖の皆様と接しなくちゃいけませんでしょ? ゼフェル様の事が好きなのに…ただ見ているだけなんて……。そんな事私には耐えられない。だったら………。」
「やっぱ莫迦だよ。おめーは。」
「ゼ…ゼフェル様?」
 きつく抱きしめるゼフェルにアンジェリークは驚いて目を見開くと身じろぎ一つせずにゼフェルを見つめた。
「ディア様と同じにやれなんて誰が言ったよ。おめーはおめーの出来る範囲でやればそれで良いんだよ。それに俺はよ。おめーを補佐官として聖地に連れて帰る為に迎えに来たんじゃねーぞ。その……。俺のものとして俺の所に迎えに来たんだ。だから……。だからおめーが暮らすのは俺の家だぞ。俺にメシ作って俺の部屋掃除して……。暇が出来たら女王や他の奴等の相手をすりゃ良いんだ。だけど! 俺の用事が最優先だかんな。たとえ女王と話してる最中でも俺が呼んだら俺の所に来るんだぞ! ……………アンジェリーク。それでも俺と一緒に聖地に戻るのは嫌か?」
 恥ずかしそうに顔を赤くして自分を見つめるゼフェルにアンジェリークは笑顔を作って首を振った。
「ゼフェル様。ホントに? 本当にそれで良いんですか?」
「…ったり前だろ。………莫迦野郎。」
 アンジェリークはきつく自分を抱きしめるゼフェルの背にそっと自らの手を回した。


「あっ。ゼフェル! アンジェリーク! お帰りなさい。」
 次の日、聖地に戻った二人を女王と守護聖達は笑顔で出迎えていた。


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