約束


「陛下。少しは落ちついて下さい。」
「落ちついて何かいられないの! 好きにさせてよ!」
「ですが……もう一ヶ月になるんですよ。」
 次代女王として前女王からの指名を受けたアンジェリークとロザリアは、女王試験を経て、それぞれ女王と補佐官に就任し聖地で暮らしていた。
 この世界では女王は宇宙そのものである。
 女王の機嫌一つで宇宙は良い方向にも悪い方向にも進む。
 新女王アンジェリークは就任から一年程過ぎたある日を境に突然不機嫌になり、世界は悪天候が続くようになった。
 それも宇宙の安泰を考えての事なのか全宇宙規模ではなく、聖地の中にのみ限られた悪天候であった。
「一ヶ月だろうと一年だろうと私の気が済むまで放っといて!」
 アンジェリークの叫びと比例するかのように、窓を叩く雨足が強くなり稲妻が空を走る。
 補佐官ロザリアは溜息をついて女王の部屋を後にした。


「ロザリア。どうであった。陛下のご様子は……。」
 別室に控えていた光の守護聖ジュリアスが神妙な面持ちで尋ねる。
「駄目ですわ。何があったのかさっぱり……。ジュリアス様は心当たりは無いのですか?」
 ロザリアが逆にジュリアスに尋ねるが、ジュリアスにも検討はつかなかった。
「解らぬ。陛下は一体何がお気に召さぬと言うのだ。……とにかく二人だけで話し合っていても解決にはならぬな。私の部屋にクラヴィスとルヴァを呼んである。皆で解決策を考えよう。」
「そうですわね。参りましょう。」
 ジュリアスの言葉にロザリアは、闇の守護聖クラヴィスと大地の守護聖ルヴァの待つジュリアスの私室へ向かった。


「今日も凄い雨だね。」
 緑の守護聖マルセルが窓辺で呟く。
「うん。陛下は一体どうしちゃったんだろうな。もう一ヶ月以上は降り続いているって言うのに。」
「まいっちゃうわよねー。洗濯物が乾かなくて……。着る物が無くなったら困っちゃうじゃない。雨ばーっかで何だかそこら中がカビ臭い気もするし……。あー嫌だ。」
 鬱陶しい雨続きの天気に気が滅入ってきた風の守護聖ランディと、する事もなくぼんやりとしていた夢の守護聖オリヴィエが、少しでも居心地の良い場所をと選んだマルセルの部屋でそれぞれ呟く。
「大変なんだよ。植物達も最初の内は喜んでたけど最近は元気が無くなってきて。きっと土が乾かないから根が腐ってきたんだと思うんだ。枯れちゃう前にお天気になれば良いんだけど……。アンジェリーク。どうしたんだろ? 早くこの雨を止ませてくれると良いんだけど……。」
「それはあんたの力でどうにかなんない訳? マルセル。」
「僕の力を使って今の状態を保つのがやっとなんです。オリヴィエ様。これ以上雨が降り続けば僕の力でも……。そしたら……………。」
「ああ。もう。泣かないの。ねぇ。ランディ。」
「そうだよ。マルセル。大丈夫だよ。陛下もすぐに気がついて天気を良くしてくれるよ。」
 半べそ状態になったマルセルをオリヴィエとランディが慰める。
「そうかなぁ。でも……それって何時さ。ランディ。いつになったら晴れるのさ。」
「えっと……。それは……。」
「ランディに答えられる訳ないでしょ。…仕方ないわね。ついておいで。二人共。」
 言葉に詰まるランディにオリヴィエが助け船を出す。
「……オリヴィエ様。どこに行くんですか?」
「ジュリアスの所よ。あれでも守護聖のリーダーなんだから何か考えてるでしょ。それを確認しに行くの。あんた達もいらっしゃい。」
 歩き出したオリヴィエの後ろ姿を呆気にとられて見ていたランディとマルセルは、振り返り手招きするオリヴィエに慌てて後を追った。


「失礼いたします。ジュリアスさ……。」
 外の様子を調べに出ていた炎の守護聖オスカーは、結果を報告すべく訪れたジュリアスの室内に足を踏み入れた瞬間、絶句し立ちすくんだ。
 ジュリアスの部屋の中は事態を確認すべく集まった守護聖達でひしめき合っていた。
「ああ。オスカーか。ご苦労だった。どうであった。外の様子は。」
「はっ。その……………。」
 尋ねるジュリアスにオスカーが他の守護聖を気にして言葉を濁す。
「構わぬ。報告してくれ。皆も気になっているのだ。」
「はっ。先日も御報告いたしましたがこの雨は聖地の中でのみ依然降り続いております。結界壁をグルリと見回りましたが聖地内での雨の影響が外に出る可能性は皆無だと思われます。」
「……そうか。では、後は陛下のお気持ち一つと言う事だな。……皆、何か心当たりはないか? 陛下の御不興の原因となる様な事に。」
 ジュリアスの問いかけにその場にいた守護聖全員が顔を見合わせる。
「あのー。ジュリアス? 御不興と言ってもですね。陛下が女王候補の頃ならともかく、今は直接話をする機会も限られていますからねぇ。申し訳ありませんけど我々には全く心当たりが無いんですよ。」
「そうですね。彼女は前女王陛下と比べれば私達守護聖と直接会話する事が多いのでしょうけど、それでもやはり頻繁にと言う訳ではありませんからね。」
 ルヴァの言葉に水の守護聖リュミエールが同意する。
「ならばこのまま手をこまねいていろとでも言うのか! このままでは聖地は水浸しになってしまうのだぞ。」
「………ジュリアス。この場に一人だけ足りぬが……。その者はどうなのだ?」
 苛立たしげに叫んだジュリアスにクラヴィスが静かに声をかける。
「何? ……そう言えばゼフェルの姿が………。ルヴァ。ゼフェルは今何をしているのだ?」
「あー。ゼフェルですか? あの子なら何でも、この長雨でメカや部品が錆びていくので、その処置で忙しくて仕方ないと部屋で何かしてましたけど?」
「そう言えば……。女王候補の時のあの娘と一番仲良かったのってゼフェルだったわよね。……………ランディ。マルセル。ついといで。ゼフェルのトコ行くよ。」
 ランディとマルセルを促して歩き出したオリヴィエの後ろをついていったのは名前を呼ばれた二人だけでなく、その場にいた全員であった。


「…ったく。勘弁して欲しいぜ。これじゃあ、いくらやっても追いつかねーや。」
 足の踏み場も無い程部屋中に広げられたネジやら歯車やらの全てに錆止め剤を塗り終え、ほっと一息ついた所で新たに錆びつき始めているメカを見つけ、さすがにうんざりとした様子の鋼の守護聖ゼフェルが窓辺に腰掛け降りしきる雨を睨みつけながらぼやく。
「あの莫迦。何が気に入らねーってんだよ。いい加減にしてくれよ。」
 さすがのゼフェルもこの長雨に弱音を吐く。
「はーい。ゼフェル。入るわ……って、何よこの臭い。」
「ば……。除湿してんだからドア閉めろよ。オリヴィエ! ………何だよ。雁首揃えやがって。この雨どうにかしろってんなら無理だからな。俺が何とかして貰いたい位なんだからよ。」
「……ゼフェル。この臭いは何なのさ。」
「錆止め剤だよ。ちょっと待てよ。そっち行くから。」
 そう言うとゼフェルは床に散らばった部品を器用に避けながら廊下へと出た。
「よっと。……で? 何の用だよ。全員揃って。」
「ゼフェル。そなたは女王候補時代の陛下と一番親しくしていたな。今回の事態について何か心当たりは無いか?」
「心当たりなんかある訳ねーだろ。あいつが女王になってから話す機会なんて殆どねーし。大体、仲が良かったってんならルヴァだってオリヴィエだってそうだろーがよ。」
 ジュリアスの言葉にゼフェルが異論を唱える。
「……そうか。全員心当たりが無いとするならば、やはり陛下の身の回りで何か起きたのかも知れぬな。この雨は一ヶ月程前から降り続いているが確か……陛下の就任一周年記念式典を行った頃であったな。ロザリア。その頃の陛下のご様子に何か変わった点は?」
「……そうですわね。確か式典の前日は変にウキウキしたご様子で楽しそうにしていらっしゃいましたわ。式典の最中も妙にそわそわして…。そう言えばその次の日からですわね。雨が降りだしたのは。」
「あー。と言う事は、式典がお気に召さなかったんですかねぇ?」
「そんな事ないですよ。ルヴァ様。僕、アンジェ…陛下が式典の後、嬉しそうに部屋に帰るの見ましたから。」
 ルヴァに異論を唱えるマルセルの言葉に皆が首を捻る。
「……そう言えば陛下の誕生日だったな。あの日は。」
「あんた…。よくそんな事知ってるわね。」
「毎年花を贈る約束で女王候補時代に聞いたのさ。一度聞いた事は忘れないタチでね。」
「まぁ。それであの日、陛下宛に薔薇の花束が届いたのですね。オスカー様。」
「もしかして……年の数だけ? 今はまだ若いから良いかも知れないけど、その内嫌味になるから止めといた方が良いんじゃないの?」
「ご心配無く。ちゃんと対策は考えてある。」
「あっそ。念のいった事ですこと。」
 オスカーの言葉にオリヴィエが呆れ顔をする。
「僕とランディも以前聞いてたんでプレゼントあげたんですよ。オリヴィエ様。ねっ。ランディ。」
「……いい加減にせぬか。そなた達。今は陛下の誕生日の話をしているのでは無いのだぞ。」
「そう言うジュリアス。お前も確か何か贈っていたな。……無論、私もしたが…。」
「なっ。あれは! 陛下が私の誕生祝いの品を贈って下さった礼としてだな…。」
「他の者も皆そうだ……。」
 慌てて言い訳をするジュリアスにクラヴィスが人の悪い顔を見せる。
「けっ。くだらねー。誕生日なんてここじゃ関係ねーじゃねーかよ。」
「そう言うゼフェル。お前が一番最初じゃ無かったか? 陛下にプレゼントを貰ったのは。確か陛下が女王候補の時だったと俺は記憶しているがな。」
「あー。そう言えばそうでしたね。確かあれは……工作キットでしたっけ?」
 ゼフェルに尋ねたオスカーにルヴァが答える。
「工具キット! だよ。工作じゃね……………あーっ!」
 ルヴァの言葉を言い直すゼフェルが突然叫んだ。


「ゼフェル様。ごめんなさい。お待たせしてしまって。」
「アンジェリーク。何だよ。俺に用事って。」
 女王試験の行われている飛空都市の森の湖で、待ち合わせをしていたゼフェルが遅れてやってきたアンジェリークに尋ねる。
「あ…あの。今日ってゼフェル様のお誕生日ですよね。それで……これ! 良かったら使って下さい。」
 真っ赤になったアンジェリークが後ろ手に隠していた物をゼフェルの前に差し出す。
「ん? あーっ。これ! 俺の欲しかった最新工具キットじゃねーかよ。俺、今度主星に買いに行こうかと思ってたんだぞ。おめえ…どうやったんだ?」
「あ…あの、この間お話しした時にこの工具キットの事欲しいっておっしゃってましたでしょ。だからディア様にお願いして、取り寄せて戴いたんです。」
「そっかー。高かったろ。」
 少なくとも自由になるお金の少ない女王候補に買える金額ではない事を知っているゼフェルが申し訳なさそうに尋ねる。
「えっ? ええ。結構高いんですね。そう言うのって。でも私、特に欲しい物とかって無いんです。だから女王陛下への謁見の日に戴くおこずかいも殆ど使わなくて…。お腹の中に消えちゃうよりゼフェル様にプレゼントを差し上げて喜んで戴けた方が私も嬉しいですし……。」
 小首を傾げて笑顔を作るアンジェリークの言葉にゼフェルが顔を赤くする。
「ありがとな。アンジェリーク。………そうだ! おめえの誕生日はいつだよ。その日に何か作ってやるよ。こいつを使って。それまでこいつは使わねえ。おめえへのプレゼントを使い初めにしてやるよ。」
「えっ? 良いですよ。そんなつもりで差し上げたんじゃありませんから。ご自由に使って下さい。」
「良いから教えろよ。おめえの誕生日。」
「………もう少ししたらお教えします。それじゃあ失礼しますね。ゼフェル様。」
 アンジェリークは笑顔で去っていった。


「とうとう女王になっちまったな。もうこれでおめえと話す事も出来なくなるんだな。」
「ゼフェル様………。」
 輝くような女王の衣装を身に纏ったアンジェリークにゼフェルが呟く。
「女王が守護聖の俺を様付きで呼ぶなよ。……女王陛下。俺は…俺の出来る限りの力で陛下のお役に立ちます。」
 ゼフェルは真剣な表情でそれだけ言って新女王に背中を向けた。
「! ……アンジェリーク?」
「私……私の誕生日、今日なんです。本当は誕生日の日にゼフェル様に告白するつもりだったのに…。なのに……。覚えてますか? 私の誕生日に何か作って下さる約束。」
「……ああ。何がいい?」
 背中にしがみついてきたアンジェリークに短く尋ねる。
「何でもいいです。ゼフェル様の作った物ならなんでも。今度の誕生日にくださいますか?」
「女王就任記念式典の日にか? ……それも良いかもな。式典が終わったら……おめえの部屋にプレゼント持って忍び込んでやるよ。」
「約束ですよ。きっと来て下さいね。」


「やべえ! 忘れてた!」
「何を忘れてたんですか? ゼフェル?」
 素っ頓狂な声で叫ぶゼフェルにルヴァが尋ねる。
「べ……別に。た…大した事じゃ……。」
 真顔で自分を見る他の守護聖達に、ゼフェルは俯き段々と声が小さくなる。
「ゼフェル。正直に言ってください。もしかしたら今回の事態を解決出来るかも知れないんですからね。」
 俯いたゼフェルにルヴァが優しく諭す。
「……去年の女王就任式の日。あいつ……誕生日が今日だって教えてくれて。一周年記念式典が終わったらプレゼント持ってあいつのトコ行く約束…してた。」
「……それを忘れてた訳ね。あんたは。」
 呆れたようなオリヴィエの言葉にゼフェルが無言でコクリと頷く。
「……ゼフェル。今からでも遅くない。陛下の所へプレゼントを持って行って来い。」
 呆れて言葉を失った守護聖達の誰よりも早く立ち直ったオスカーがゼフェルを促す。
「陛下はお前さんからのプレゼントを一番心待ちにしている筈だ。早く行って謝って来い。」
「だ……だけどよ。何を持って行けば良いんだよ。俺……何も用意してねーんだぜ。」
「何でもいいのよ。あんたが作った物なら。そう言う娘だったでしょ。アンジェリークは。」
 続いて立ち直ったオリヴィエにも促されたゼフェルは部屋の中へと姿を消し、しばらくしてから小さな包みを持って出てきた。
「………行って来る。」
「頑張ってね。ゼフェル。明日晴れるかどーかはあんたにかかってるんだからね。」
「そうだよ。ゼフェル。植物さん達が枯れちゃう前にアンジェリークと仲直りしてよね。」
「頼んだぞ。ゼフェル。」
「ゼフェル。お世話係の者達には陛下の部屋に近づかないよう伝えておきますから、陛下の事お願いしますね。」
 女王の部屋へと歩き出したゼフェルに、その場にいた全員から暖かい声援が贈られた。


 重々しい扉の前にやってきたゼフェルは深呼吸を一つして、勢いよく扉を開けた。
「! ゼフェル……。何か用ですか?」
 驚き振り返ったアンジェリークは、ゼフェルの姿を認め怒った様な顔を見せる。
「……話があるんだよ。」
「私にはありません。」
「聞けよ!」
「聞きたくありません!」
 言いながら一歩一歩近づくゼフェルから逃げる様に後ずさりをするアンジェリークが、瞳に涙を浮かべたままキッとゼフェルを見据える。
「あなたの話を聞くつもりはありません! 自分の館にお戻りなさい!」
「アンジェリーク!」
 強い口調で叫ぶアンジェリークの両腕を、ゼフェルは彼女の名前を叫びながら掴む。
「離しなさい! 向こうへ行って!」
「俺の話を聞けって言ってるだろ!」
 無茶苦茶に暴れるアンジェリークにゼフェルが叫ぶ。
「聞かないって言ってるでしょ! ゼフェルなんかずっと自分の館で機械に埋もれて居れば良いんだわ!」
 アンジェリークの手がゼフェルの頬に手形を残す。
 殴られても叩かれてもゼフェルはアンジェリークの腕を放さず、逆に力を入れて自分の方へ引き寄せた。
「!」
 唇を塞がれたアンジェリークがゼフェルの身体を引き剥がそうともがく。
 しかしゼフェルは一向に力を緩めず、逆にアンジェリークの身体から徐々に力が抜けていった。
「……おめえの誕生日。忘れてて悪かった。」
 完全に抵抗しなくなったアンジェリークに、ようやっと力を緩めたゼフェルが耳元で小さく呟く。
「全面的に俺が悪かった。何でもする。だから……機嫌直せよ。それと………これ。」
「何……? これ?」
 小さな包みを渡されたアンジェリークが尋ねる。
「遅くなっちまったけど………やるよ。」
「これって……電話?」
「ケイタイだよ。そこの赤いボタンを押すと使える。」
 言われた通りアンジェリークが赤いボタンを押すとゼフェルの胸元でベルの音が響く。
「なっ。用がある時はそれを使えよ。」
 優しく宥めるように話すゼフェルにアンジェリークが悲しそうな顔を見せる。
「ゼフェルはズルい。ちっとも私の気持ちを解ってない。オスカーやランディは色々と理由を見つけては私の所に話に来るのよ。他の守護聖達もそう。なのに…ゼフェルは用事が無いと私と話したくないのね。……用がある時だけなの? 用が無い時は使っちゃ駄目なの? ゼフェルからは使ってくれないの?」
「そんな事は……。男は用もねーのに電話なんてしねーんだよ。……………泣くなよ。……解ったよ。何でも言う事聞いてやるよ。頼むから泣かないでくれよ。」
「ホントに?」
 瞳を潤ませるアンジェリークがゼフェルに尋ねる。
「ホントだって! 何でも言う事聞いてやるよ。おめえが女王になる時言っただろ。俺のやれる事をやってやるって。だから何でも言えよ。言う通りにするからよ。」
「絶対よ。今度また約束破ったら許さないから。」
 そう念を押してからアンジェリークはゼフェルにそうっと耳打ちをした。
 耳元で囁かれた言葉にゼフェルは抗議の声を上げたが、アンジェリークは願いを変えなかった。


「おっはよー。ルヴァ。いいお天気になったわね。」
 翌日、久々に広がる青空の元、盛大に洗濯物を広げているルヴァにオリヴィエが声をかける。
「ああ。お早うございます。オリヴィエ。本当に。こんなに気持ちのいい天気は久々ですからねぇ。」
「ゼフェルがうまくやったって事ね。所でルヴァ? 当のゼフェルはまだ陛下の所なの?」
「いいえ。食堂で食事をしてますよ。」
「あら。そぉーなの? んじゃ、ちょーっと行って来るわ。じゃあねん。」
「あー。あんまりゼフェルをからかわないでくださいね。オリヴィエ。」
 後ろからかけられた声に振り返りもせずに手だけで合図して、オリヴィエは食堂へ向かった。
「なぁに? あんた寝不足なの?」
 食堂にやってきたオリヴィエは、陽の当たるテーブルで大きな欠伸をするゼフェルの姿を見つけ声をかけた。
「………おっす。」
「……その様子じゃあ、夕べは寝てない見たいねぇ。で、どうだったの?」
「何がだよ?」
「あら。嫌だ。言わせる気? アンジェリークとやっちゃったんでしょ。」
 オリヴィエの言葉にゼフェルが飲みかけの水を吹き出す。
「ちょ……。汚いわね。」
「……………やってねーよ。」
「へっ?」
「何もしてねーよ。夕べはあいつが眠るまで側に居てやっただけだよ。」
「何よそれ。あっ。ゼフェル。待ちなさいよ。詳しく聞かせなさいってば。」
 抗議の声をあげるオリヴィエを無視してゼフェルが自分の館へと向かう。
『言える訳ねーだろ。約束破った罰で来年の誕生日まで毎晩、添い寝する事になったなんてよ。しかも手出しが一切出来ねーなんて……。あんな寝顔見せられて来年まで堪えられるのかよ。俺は。』
 一晩中、アンジェリークの寝顔を見つめていたゼフェルが心の中で毒づいていた。


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